ギーコ…、ギーコ…、

そんな不自然な音が雨音と共鳴していた。
雨宿りして待っていろとティエリアに言われたにも関わらず、降り頻る雨の中でブランコを漕いでいた惺。
早く彼女の元へ行かなければ。
そう心は言っているのに、身体は動かない。
雨の中、憂いを帯びた表情で静かに何処かを見詰めている彼女は、まるでそこだけが絵画の一部のように、一際美しかった。
不謹慎だとは分かっている。だけど、その美しさに僅かでもいいから身を委ねていたかった。
(そうなんだよ…これなんだ…俺が好きなのは…求めていたのは…)
先程まで一緒にいた女性二人を思い出す。あそこまでの派手さは望んでいない。ただ、落ち着くような、包まれたくなるような、安心感が欲しいんだ。
「惺…」
彼女の名を囁く。
ギィ…、とブランコが止まる。
「惺…!」
もう一度、名前を呼んだ。
惺は俺の顔を見て立ち上がる。
「ロックオン…」
とその唇が呟く。
「…ロックオンなんか…知らない」
「…っ、」
まるで今まで女性と遊んでいた事を責めるように、濡れた彼女の瞳が貫いた。
「惺…っ!俺が…!」
――悪かった。と、紡ぐ前に、その華奢な身体を抱き締める。
(っ…冷たい…)
何れ程長い間雨に打たれていたのだろうか。
(俺が、もう少し早く素直になっていれば…)
「ごめん…、ごめん、惺…!」
ぎゅっ、と更に強く抱く。
冷えた身体を温めるように。
「…………」
無言のまま抱き締められる惺。
「頼むから…顔…上げて…俺に見せてくれよ…」
頬に手を添える。彼女はゆっくりと顔を上げてくれた。水分をたくさん吸った前髪からは、吸い切れなかった水分がポタポタと滴る。
「バカロックオン」
「ああ。俺はバカだ」
惺の顔がよく見えるように前髪をよける。
「でも、俺がバカになるのはお前のせいなんだぞ…」
ゆっくりと唇を這わせる。額に、目尻に、耳許に。
そして囁く。雨に攫われそうなくらい、小さな声で。

「…お前が…俺の心を掻き乱してバカにさせるんだ…」

「…っ、ロッ――…」
言葉なんてこれ以上要らない。
俺は惺の唇を自らのそれで塞ぐ。
雨の中、その静寂に似つかわしくない程の激しい接吻。
「…っ、はぁ…」
「…惺……っ、」
(やっぱり、俺は…)
――お前じゃなきゃ、満足出来ない。
「…はぁ…っロックオン…おれ…」
俺はゆっくりと惺の唇に指を添える。

「だめ。…続きは、」

…――バスルームでな。





「バカロックオン!」
頭にあの時の光景が浮かぶ。
無表情で無愛想な彼女が見せた、怒りの感情。
(そう考えたら、俺って幸せ者だよな…)

たまには喧嘩も悪くない、と思ったのは、ここだけの秘密である。




2012.06.14


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