あれから俺はゲーセンやらカラオケやら、色々な所に連れ回された。
惺があんな感じの女性だから、こう言った類いは全く行かない。それに、彼女と出歩く時は何時も「ロックオンの好きな所でいい。おれは特に用事とか無いから」と言って、俺の好きな場所に行く。
(…って何で惺と比較してんだよ…。今は喧嘩中だろーが俺)
ふるふる、と頭を振って惺の残像を掻き消す。
「ねぇ、オニーサン、次はどーする?」
「あー…、俺は別に…」
と、そこまで言った時だった。
ポツ、と、鼻先に冷たさを感じた。
「え?」
―――雨だ。
ポツ、ポツ、と量を増す水滴。
そして、本格的に降り始めた。
「うわっ、サイアク!オニーサン来て!」
「え?」
手を引かれてバシャバシャと駆ける。
何処に向かうかと思いきや、とあるホテルに連れ込まれる。
「おい、ここは…!」
(所謂ラブホって奴じゃ…)
「何考えてんの!雨宿りよ!シャワーもあるし丁度良いじゃない!」
そう言って部屋に向かう。
「あたし達先にシャワー使うけど平気?」
「ま、まあ…」
「じゃあ直ぐに行ってくるから」
女性二人はシャワールームへ消えた。そこで漸く自分の立たされている状況に気付いた。
(これって…結構…いや、かなりヤバイよな…)
喧嘩中とはいえ、見知らぬ女性(しかも二人)とラブホテルに行ったなんて…。
見知らぬ女性と遊んだ事だって、良くないのに…。
ベッドに腰掛け項垂れる。
(どうやってこの場から消えよう)
逸そ逃げてしまおうか。
心臓が危険信号を発している。


―――惺に、会いたい。

傷付けた事を謝って、そして抱き締めたい。
(よし、逃げよう)
ベッドから立ち上がった瞬間だった。女性二人がシャワールームから出てきた。
「な"!!服着ろよ!!」
バスタオル一枚のみ纏った状態で近付いてくる。
「嫌よ」
一人が言う。
「だってどうせ脱ぐじゃない」
間合いを詰められた。
そして、女性の手がゆっくりと伸ばされ――…


「やめろ…っ!!!!」


パシン、とその手を拒んだ。
女性は思わぬ拒絶に目を丸くした。
「怖じ気ついたの?」
「違う!」
「なら何よ?あたし達、こー見えても結構身体には自信あるのよ」
バスタオルをはだけさせ、にじり寄る女性。ただ不快感しかしない。
(バカじゃねーか!!!惺の方が胸もあるしくびれてるし色気もある!!!)
脳内に浮かぶのは彼女一人。
(もう、はっきり言おう)
これ以上、愛しい人を傷付けてどうしようと言うのだ。
失う前に、壊れる前に。
自分は素直にならなければならない。
「言っとくけど俺は君達なんかこれっぽっちも好みじゃない」
唖然とする女性。しかし続ける。
「アイツは君達よりも泣き虫で強がりで無愛想で無表情で無口で、社交性もない!!だけど――…!!!」
(だけど、)
「美人で可愛くて頑張り屋で人一倍優しくて一途で…!!!!」
(ああもう!!!!!)
数えたらきりがない。
「俺はやっぱり惺じゃなきゃ――…!!!!」

俺は、部屋から駆け出して、
再び雨の降る世界に飛び込んだ。


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