「…ん、」
頬に生まれた冷たい感覚で、俺の意識は浮上した。
ゆっくりと瞳を開くと、愛しい惺の顔が視界いっぱいに広がった。なんて幸せな事なのだろうか。…風邪という要素を除けば。
「買ってきた」
さっ、と目の前に出される白い袋。その中の果物達が透けて、鮮やかな自らの色を主張する。
「ありがと」
「今、食べる?」
「ああ、今、食べる」
俺の声ににっこりと微笑むと、中から林檎を取り出した。
「これでいい?」
「うん」
惺と同じ様に力無く微笑むと、彼女はフイッと瞳を逸らした。
(あー、照れちゃって)
笑みを濃くする俺と対照に、無表情でナイフを取り出す惺。
(と言うか何処からナイフを…)
まあ、ツッコミは置いておき、ぐるん、と彼女がよく見えるように寝返りをうつ。
真剣に林檎の皮を剥く惺は、何だか可愛らしく見えた。
「上手いな、皮剥くの」
「刃物の扱いは得意だからな」
にや、と彼女が意地悪に笑った。
(確かに…刃物を扱わせたら右に出る者は居ないと思うけど…)
と、あれこれ考えているうちに、皮を剥き終わったらしい。
「はい」とお皿の上に綺麗に乗っかった状態で渡される。
「食べさせてくれないのか?」
「いくら風邪引きさんでも林檎くらい自分で食べれるだろ」
「やだ。食べさせて」
「…………。」
黙りこくってしまった。これは彼女が葛藤しているサイン。
「手でいいから、食べさせて」
早く、と言わんばかりに口を開けておねだりすると、惺は漸く折れた。
「仕方無いな、」
ゆっくりと、綺麗な所作で林檎をひとつ掴む。
俺に覆い被さるように近付いて口元にその果実を寄せる。
「あー…ん」
ぱくり、と、彼女の指までくわえ込む。予想外の出来事に、惺は目を丸くして固まってしまった。
「ちょ…、ロック、オ…」
混乱する惺。その指を噛まないように、器用に林檎だけを噛み砕いて呑み込んだ。
「は、離して、よ」
嫌だ。
まだ離してあげる気は無い。
指に気を取られてがら空きになっている腰を引き寄せる。ぼすっ、と、俺の上に彼女が舞い降りる。
「…い、やだ…っ、ロックオン、指、擽ったい…っ」
ザラリとした舌の感触と熱に侵された口内が惺を攻める。
(ああ、やばい、もう…)
どうやらスイッチが入ってしまったらしい。
「惺、」
口内から指を解放する。厭らしく糸を引く唾液に恍惚を覚えた。
「な、に、」
嫌そうに、顔をしかめながら答えたその唇。しかしその瞳は此れから起こることに焦がれているのだと容易に見抜いてしまった。


「風邪…、移ったらごめんな?」


俺は惺を押し倒した。


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