「…――えっ、」

その光景を目の当たりにした俺は、思わず二度見した。
窓ガラス一枚隔てたそれ。
向こうは土砂降りの雨で、テレビでは雷注意報まで出ていた。
なのに、そんな雨の中で、一人、上を向いたまま、目を閉じて佇み、雨にずっと打たれている。
「あのバカッ!風邪引くだろ!」
傘を一本拝借して、急いで彼女の元に駆け寄ろうとしたが、ちょうどやって来たティエリアに腕を掴まれる。

「――放っておくんだ。」

彼の口からは出ないと思っていた、冷たい科白だった。
「でも…っ、あのままじゃ…っ」
彼の手を振り払って向き直ると、ゆっくりと、今度は優しい声色で、言葉を紡いだ。
「…――いつもポーカーフェイスで感情を抑え込んでいる彼女が、唯一、思いっきり泣けるのは、雨が降ってる時だけなんだ…」
「えっ、」
(泣いて、る、のか…?)
予想外の事実に思わず聞き返した俺。ティエリアは寂しそうに微笑んだ。
「たまに僕や刹那に泣き付くこともあるけど、こればかりは…、僕達もどうにも出来ないからな…」
小さく呟いた。彼女も何か思う事があるのだろう。
一人で泣きたくなるような、何かが。

「雨が、惺の涙を隠してくれる。」

(雨が…、)
「もっとも、彼女は、僕達が泣いてると知っているなんて気付いてないみたいだが…」
二人で窓の外を見詰める。

「もしかして、宇宙[ソラ]が泣いてるから、惺も泣いてるのかも知れないな」

ティエリアの科白が虚しく響く。
「あの人は――ソラになったから…」
あの人――ソラで亡くなって、ソラになった俺の双子の兄。
兄さんが泣いてるから、惺も泣きたくなるのだろうか。

「…早く…、やまねえかな…雨…」

俺は静かに吐き出した。




2016.03.21

- 73 -

[*前] | [次#]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -