何やら向こうが騒がしい。
俺は、その声に引かれるように近寄った。数人がこちらに気付いて「あ、ロックオン」と声を洩らす。
「なにしてんだ?」
小さなテーブルを囲みながら何やらやっていたようだ。意地悪な笑顔を浮かべる惺と悔しがるアレルヤが近くに居る。
「腕相撲をやってたんです、ストラトスさん」
ミレイナが俺の問いに答えてくれた。
「腕相撲…」
これまた意外なことを。
俺は苦く笑った。まるで子供のようだな、と。半ば馬鹿にしていたのだが、次の瞬間に出てきたミレイナの科白に、そんなことはブッ飛んでしまった。
「まだ、誰も夏端月さんに勝てないんですぅ…」
え?
「惺に勝てないのか?」
聞き間違いか?女性である惺に?
ミレイナは俺の思っている事が分かってしまったらしい。「アイオンさんもハプティズムさんもセイエイさんも負けちゃいました」と、ご丁寧に戦績を報告してくれた。
「冗談だろ」
再び苦く笑う。ミレイナの向こうにいたフェルトが「惺に勝てる人は多分この中に居ないよ」と呟く。その科白に火がついた。
「じゃあ、俺とも勝負してくれよ」
天下のソレスタルビーイングだ。そのなかで一番の力の持ち主が女性となっては妙に情けない。
ここは、俺がビシッと決めてやろう。
「惺、勝負だ」
腕捲りしながら振り向く惺。余裕なのか、その顔はいつもの無表情ではなく、ガキ大将のような笑顔が浮かんでいる。
お前に倒せるのか、とでも言いたげに俺の差し出した右手を握る。暫しの沈黙。ぜってぇ負けねぇ、と惺の瞳を睨み付けた。
「はいはい、始めるよー」
アレルヤが俺と惺の手を掴む。「準備はいい?」と訊かれたので静かに頷く。
「…――ready…」
刹那、
「――go!!!」


瞬殺。


(ウッソだろぉおお…!!!)
思わず絶句。
余裕そうに右手をブンブン振る惺が実に腹立たしい。
(つーか、あまりにも瞬殺過ぎて、俺の関節から変な音聞こえたぜ…?)
「…アンタ、なんでそんな強ぇの…」
惺は意地悪に眉を吊り上げて「さぁね」とだけ答える。

「あぁ〜、ストラトスさんも負けちゃいましたぁ…、」
「まぁ、惺は文字通り“鉄腕”だからね。勝てたら凄いよ」
アレルヤが楽しそうに笑う。惺は「こうなることを知りつつも挑んだお前達を讃えてやろう」と再び笑った。
「アーデさんはやらないんですか?」
「皆が負けたのに僕が勝てる訳ないだろう」
突然の科白に苦笑するティエリア。しかしミレイナは、アーデさんと夏端月さんの戦いも見てみたいです、と食い下がる。ティエリアは仕方無く惺の前へと移動する。
「惺」
「ん?」
静かに左手を差し出したティエリア。
「僕は、本当の君と勝負したい」
意味深長な科白。
(本当の惺?)
どういう事だろう。先程まで何かズルでもしていたのか。
ウンウン唸っているうちに、二人の左手が重なる。惺は先程と同じように笑顔を浮かべてはいたが、その笑顔は、意地悪な笑みではなく、何かを温かく見守るような穏やかな笑みに変わっていた。
「じゃあいくよ。」
アレルヤの声。
「…―――ready…go!!」

ぐっ、と二人の腕に力が籠る。しかし、先程の戦いとは違って、なかなか決着がつかない。
ずっと真ん中を行ったり来たりしている二人の左手。
何なんだ。ティエリアめちゃくちゃ腕力あるじゃねぇか。
「あー…っ、も、う、だめっ」
力尽きたのか、真ん中にあった惺の手が一気にバタンと倒された。
荒い呼吸で惺とティエリアの二人は笑いあう。
「君も、普通の女性と何ら変わらない。」
「ティエリア意外と強いんだな」
はは、と珍しく声を出して笑う。もう、なにがなんだか分からないんだが。
その横で、ミレイナが「強いですアーデさん!!」と叫んでいる。
一番力持ちがティエリアで二番が惺だなんて何かの間違いなんじゃないか。
「今度から重い物はティエリアに持ってもらおう」
にっこりと。

惺の右手が義手だと知る前の話だ。




2016.03.21

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