「…ロックオン、ちょっと相談があるんだけど…」

フェルトのそんな科白が俺に向けて放たれたのは数分程前のこと。
俺にとっては妹のような彼女。そんなフェルトが悩んでいる。相談に乗ってほしいと勇気を出して告げてくれたのだ。ソレスタルビーイングの兄貴的ポジションの俺が、そんな彼女の相談を無視出来るはずがない。
「どうした?言ってみな?」
と、軽めに返答したのがいけなかった。俺は、勝手にその相談内容が大したものでないと決めつけていたのだ。

「私…惺に嫌われてるのかな…?」

その科白で、俺は思わぬボディーブローを食らった気分になった。
「…惺が?フェルトを?」
相談内容をうまく飲み込み切れなくて、つい問い返してしまった。フェルトは、声には出さなかったが小さく頷いた。
これはどう対処すべきか…。
「惺はフェルトを嫌ってるようには見えないけどな…」
素直に思った事を告げた。
まあ、惺は元々愛想の良い人間じゃないし、長年一緒にいるマイスターにでさえ時折壁を作っているように見える時がある。仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。
「でも…」
フェルトは納得していないようだ。優しい彼女には、いつも妙に冷たい惺の事が理解出来ないのだろうか。
「うーん…」と頭を抱えたその時、タイミング良く扉の開閉音。そこに立っていたのは話題の人物、惺・夏端月。噂をすれば何とやら。

「おかえりなさい」
フェルトが惺に告げた。惺は、チラリと此方を見はしたが、特に大きな反応は無し。
俺は「まずい」と直感的に思った。
今の反応は、無愛想な惺にとってはいつも通りだったのかもしれない。俺だって、フェルトの相談を聞く前まではきっと「いつものことだ」で済ませている。しかし、フェルトの相談内容があれなだけに、ちょっと敏感になってしまう。
「惺に嫌われてるかも知れない」と捉えているフェルトには、今の対応は冷たすぎるように感じてしまうかも知れない。
「おい、何だよ惺。反応くらいしてやれよ」
思わず声に出してしまった。
惺は惺で、「いつもは流す癖に何で今日だけ突っ込まれた?」と言いたげな怪訝な表情を浮かべている。
「反応したらどうなるんだよ。なにか良いことでもあるのか?」
ぐさりと突き刺さる惺の言葉。彼女の性格は理解しているけど、今回ばかりは負けられない。惺の科白は暗にフェルトを傷付けているのだ。
「コミュニケーションだよ、惺。もっと和気藹々とやろうぜ」
フェルトの不安を拭い去ってあげたくて。この時は必死だった。
しかし、
「和気藹々とやる義務なんて無いだろ。おれに構わないでくれ」
まったく聞く耳を持たない一匹狼のその一言に、フェルトより先に俺がプッツリきてしまった。
「お前なぁ…っ!いい加減にしろよな…っ!」
ガタリと立ち上がって惺に詰め寄る。フェルトが「もういいよロックオン」と制止するのが聞こえたが、そのままスルー。
不穏な雰囲気が流れる。
ツカツカと惺の目の前まで近寄ると、彼女を強気に見下ろした。惺はいつもの無表情で俺を見上げている。
「お前は一人で戦ってるのか?フェルトや俺達、他のクルーの協力を得てガンダムに乗ってるんだろ。ちょっとくらい感謝とか愛想良く出来ないのか?」
「出来ない」
キッパリと断言される。
「一人で戦ってるのかって?はっ、笑わせる」
嘲るように。
「じゃあお前はおれが死にかけた時に身を挺して助けてくれるのか?一人で戦ってるんじゃないんだ、ってな。そんなのは所詮きれいごと。出来ないだろ。死ぬときは一人。戦う時も一人だ」
何時もより饒舌な惺に、漸く俺は「もしかして本気で怒らせたかも知れない」と気付く。でも、俺だってそれなりに怒ってるから後には引けない。
つーか負けない。
「そっちがそーなら、俺達はもう金輪際お前には関わらないからな」
惺は馬鹿馬鹿しくなったのか「どうぞ」と吐き捨てると、俺にわざとぶつかってから去って行った。

「ろ、ロックオン…」
フェルトの心配そうな声が響いた。
俺は振り返り微笑んだ。
「ミス・スメラギに言ってくる。惺は一人で戦うから関わるな、ってな」
フェルトの顔から血の気が引いた。

こうして、ソレスタルビーイング全体を巻き込んで、俺達の喧嘩は勃発したのだった。





翌日。
俺はよく眠れずにそのまま朝を迎えた。
理由は言うまでもない。
惺のことだ。
「…おはよう」
ブリーフィングルームに入る。小さく欠伸を噛み殺して辺りを一瞥。惺以外のクルーが集まっていた。
「ねえ、ロックオン、本当にいいの?」
ミス・スメラギが問い掛ける。惺に何も伝えずにミッションをしてもいいのか、と。
「いいんだ。あいつは一人でやるんだから」
素っ気なく答えると、隣から小さい声で「貴方の勝手な喧嘩に僕達を巻き込まないで欲しい」とティエリア。彼は惺と仲がいいから、今回の事態には迷惑しているのだろう。でも、今回は付き合ってもらう。
惺のあの考え方はどうにかしなければいけないんだ。そして今がその時だ。
「じゃあミッションの確認をするけど…」
と、ミス・スメラギが話始めたその刹那だった。
「あれ…?」とクリスティナの声。だんだん青くなる顔色。
「スメラギさん…、大変です…」
「どうしたの?」
「惺と…、惺のガンダムがありません…っ」

そう来たか。



2015.10.02

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