「ああ、また雨か」
隣のロックオンが気だるそうに呟く。僕は、横目で彼を一瞥すると「意外だな。雨は嫌いなのか」と問うた。彼は「まぁな」と苦笑いを浮かべる。
「あいつが泣いてた時、雨が降っていたから」
“あいつ”――名前を出されなくても分かる。彼にとって唯一無二の掛け替えの無い女性だ。そして、僕にとっても、唯一無二の特別だ。
僕はロックオンを見上げた。彼はまだ苦笑いを浮かべている。そして窓の外の薄暗い世界を見据えた。
勝手な偏見だが、ロックオンは「雨は好きだ」と言うと思っていた。雨の奏でる音や、少し濡れた肌。薄暗い世界に咲く、一面の鮮やかな傘。僕は案外嫌いではない。だけど、“彼女が泣いていたから、雨が嫌い”――そう言う彼にとっては、きっと、些細な雨音さえ、彼女の嗚咽に掏り替わる。水溜まりに彼女の泣き顔を映して、雨が止むまで、ずっと息苦しさを抱えて空を見上げるのかも知れない。
ロックオンは珍しく溜め息をついた。
「雨の降る日は…、ずっと惺の傍に居たくなる。」
彼女が泣いていなくても、傍に居たくなるんだ、と。
残念ながら、今、その本人は刹那とのミッションの最中だ。ロックオン、アレルヤ、僕の三人は地上の王留美の隠れ家に残って待機している。彼女が帰って来るのはまだ時間がかかりそうだ。彼はそれまで寂しそうに笑いながらずっと空を見上げているつもりなのだろうか。
ロックオンは「おっかしいよな、俺」と笑って瞳を逸らした。

「早く…、帰って、来ないかな…」

ああ。惺。早く帰って来てくれ。
こんなに切なそうなロックオンなんか、
僕は、見たくない。


雨は当分やみそうにない。




2013.04.17

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