「ティエリアってさぁ、誕生日無いんだよな」

ぽつり、と呟く惺。隣に居た僕は、突然の彼女の科白にただ呆然とその瞳を見詰め返した。
確かに、僕はイノベイドだ。だから、造られた日は在れども、誕生日なんてものは存在しない。惺はじっと僕の瞳を見詰めている。無表情のままで。
自慢ではないが、彼女の考えている事は表情が無くとも大抵は理解出来る。長年付き添っていた勘のようなものだ。しかし、今この瞬間、僕の目の前に居る惺は、何を考えているのか全く分からない。突然誕生日の話題なんか出して。彼女自身、誕生日等と言うイベント類は興味無いはずなのに。
「珍しいな、どうしたんだ?」
正直に問えば、彼女は「ほら、この間、刹那の誕生日だっただろ?」と答えた。成る程。だから僕の誕生日を祝えない事に不満を抱えていたのか。
「思えば、おれ、ティエリアにプレゼントとか渡した事無いよな」
やっと無表情が崩れたかと思ったら眉間に皺。
「僕は別に気にしていない。そもそも、君だって過去を思い出せなかった時は誕生日が無かったじゃないか」
「あー…、それはそうだけどさー…」
じーっ、と、見詰め続けて(と言うか寧ろ半ば睨んで)いる惺。すると、何かを閃いたのか、一気に眉間の皺が消えた。
「なあ!ティエリア!」
がしっ、と両腕を掴まれる。
「誕生日!おれが決めてやる!」
「え…?」
「おれと同じにしよう!」
「惺と…同じ…?」
純粋に驚いた。彼女がそんな科白を紡ぐなんて思わなかった。
無表情からのしかめっ面を経て、今は珍しく笑みを浮かべている彼女。彼女は饒舌に続けた。
「おれの本当の誕生日じゃなくて、皆がおれの為に作ってくれた誕生日。クリスマス、どうだ?」
ずるい。
そんなに嬉しそうな顔をされたら否定の言葉なんて一切出なくなる。元々、惺の言葉を否定するつもりは無いが、僅かに残った意地悪な抵抗さえ、彼女の前では砂塵のように小さくなって舞ってしまう。
僕は小さく頷いた。満足そうに目を細める惺。今日の彼女は本当にレアだ。下手したら、今週分の笑顔を今一気に見てしまったかも知れない。僕は彼女を見詰める。まだ嬉しそうに笑っている。
「おれとティエリアは光と影。おれはお前の一部で、お前はおれの一部。だよな?」
にっこり、と。遠い過去に紡いだ誓いにも似た言葉を携えて。あの日、あの瞬間、この言葉で僕達はひとつになる契りを交わしたんだ。あれから僕は随分と長い間彼女を思いながら見守って来た。
「そうだな」
ゆっくりと頷く。
君と同じならば、嬉しいと思ってしまう不思議な魔法。
「次のクリスマスは盛大に祝おう。おれの誕生日と、ティエリアの誕生日を」
掴まれていた手が離れていく。僕は、無意識にその手を追い掛けて重ね合わせた。指と指を絡ませて。
小さく囁く。

「それは楽しみだな、惺」

惺から誕生日プレゼントは貰えるのだろうか。惺の事だから、きっと一生懸命内緒で選んでくれるのだろう。そして、一緒にケーキを食べて、クリスマスパーティーも開いて。皆で、楽しく。
柄にも無く思いを馳せる。

惺は、そんな僕の思いを見抜いたのか否か、再び笑顔を見せた。

「これで、やっと、ティエリアにおめでとうと言える」

その瞬間、僕の世界は時を止めた。
彼女はロックオン・ストラトスのものだが、愛しい、とはこう言う瞬間の事を言うのだろう、と。
止まった世界の真ん中で、ただそう感じた。

「…全く…、君と言う人は…」

そう呟けば、惺は再び笑顔を浮かべて、僕の手を強く握り返したのだった。




Happy Birthday Tieria Erde!
2013.04.09


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