刹那の後ろ姿を見付けたおれは、ふと、今日が何の日か思い出して声を掛けた。
「刹那、」
抑揚の無いおれの声が刹那の背中にぶつかる。その声に、彼はゆっくりと「何だ、惺」と言いながら振り向いた。

「誕生日おめでとう」

まるで、「おはよう」とでも言うようにナチュラルに声に出した科白。刹那は、そんな科白が来るなんて思っていなかったらしく、目を丸くしながら固まってしまった。
おれは小さく笑いながら「驚きすぎ」と呟いた。
しかし困った。今、刹那を見て今日が何の日か思い出したからプレゼントなんて全く用意していない。そもそも、刹那が何をもらったら喜ぶのかもよく分からない。ポケットをがさがさと漁るが、何時も食べているストロベリーキャンディーが二個入っているだけ。こんなのじゃプレゼントなんて言えない。
おれは苦笑を浮かべた。
「…ごめん、プレゼントは用意してない」
「いや、さっきの言葉が俺にとって最大のプレゼントだった」
僅かに嬉しそうに微笑んで、そう答える刹那。その声に救われた。
「今度、何かプレゼントしてやるよ」
「無理にプレゼントを用意しなくても構わない」
「それじゃおれの気が済まない」
おれの誕生日は皆が盛大に祝ってくれたのに。刹那には何も用意していないなんて情けなくて仕方無い。取り敢えず、何か食べ物でも奢るか、なんて無難に考える。しかし、目の前の刹那は、眉間に皺を寄せたまま動かなくなってしまった。なんだ、そんなにプレゼントが要らないのか。それともおれのセンスを疑っているのだろうか。別に万死に云々と彫られた木刀とかプレゼントする訳ではないし、そこは素直に喜んで欲しいのだが。
思わず「不服そうだな」と言ってしまった。
「…いや…、不服な訳では…」
歯切れが悪い。
少し強めに問い詰めれば、刹那は腹を括ったのか「プレゼントは要らないから、その代わり…」と言葉を紡いだ。
「俺の願いを、きいてくれないか」
「願い?」
予想外の単語だった。
彼の願っている事は、おれが実現可能な事だろうか。成るべく叶えてやりたいとは思うが。
「何なんだ?願いって」
それが問題。ストレートに問い返したおれに対して、刹那はあからさまに視線を逸らした。

「…て、欲しい」

「ん?」

上を向いて。おれの瞳を見据えた。

「…頭、撫でて欲しい。」

唖然、とはこう言う時に使うのだろう。きっと。おれは固まったまま彼を見据えた。意外過ぎるお願いだった。
刹那は、固まったおれを見て直ぐ様「やっぱりいい」と言い放った。恐らく、おれがやりたくないと思ったと勘違いしたのだろう。違うんだ。ただ、びっくりしただけで。
おれは再び苦笑を洩らした。頭撫でるとか、される事はあっても、誰かにした事は無いかも知れない。
気まずそうに視線を逸らす刹那の腕を強引に掴んで引き寄せた。
軽くハグになってしまったが気にしない。そのままぐしゃぐしゃと彼の頭を乱暴に撫でてやる。
「惺、痛い」
「だって、お前が可愛らしい事言うから、つい…」
がしがし、と。撫でると言うよりは掻き乱すの方が正しいのかも知れない。おれは、自分より少しだけ背の低い彼の頭に何時までも触れていた。いつか、この頭がおれを追い越す日が来る。そうしたらきっと、おれはもうこんな事は出来ないし、刹那もこんな事は頼まないだろうな。そして、その時が来たら、おれ達はどうなっているんだろうか。まだソレスタルビーイングは活動しているのか。それともソレスタルビーイングは無くなっているのか。そんな遠い思いを孕みながら。おれは悲しく目を細める。
「…可笑しな話だが…、」
「ん?」
「たまに…、本当にたまに…、惺が母親のように見える時がある」
歳も若いし、無表情で、無愛想だが、と続く。
「勿論、俺の実の母親にも全く似ていない…。だけど…、どうしてだろうな…。無性に縋り付きたくなる瞬間があるんだ」
おれは笑った。それはきっとおれが底辺を見たからだ。絶望の底から、這い上がって来たから、刹那は安心出来るのだと思う。
頭を撫でている手を止めると、おれは「じゃあ」と提案。
「お前への誕生日プレゼントは、頭なでなで券にしようか」
意地悪な笑みで続ければ、刹那はおれと同じように笑って、

「…悪くないな。」

と、答えたのだった。




Happy Birthday Setsuna F Seiei!
2013.04.08


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