『…――おれはもう二度とニール・ディランディに触れられないのに!!!』

それは半ば悲鳴にも似ていた。
アニューと対峙した惺は、アニューの自分に対する妬みや羨ましさに対してそう叫んだ。
ポーカーフェイスで隠していた傷だらけの心を、その瞬間だけ晒け出したんだ。惺が兄さんを想って静かに涙を流す姿は見た事があった。だけど、こんなに感情的に苦しみを叫ぶ姿なんて、初めて見た。
そのポーカーフェイスの下に、必死で隠していた本心に、俺達は、いや、俺は、長い間気付かなかったんだ。だから、こんなにも彼女を苦しめて。逃げた先のアニューだって完全に愛する事も出来なくて。惺と向かい合って自分が傷付くその前に、と、勝手に逃げた癖に、一丁前に惺を責めて傷付けている。
「なにしてんだ、俺は…」
前髪を掻き上げて呟く。知ってる。分かってるんだ。感付いているんだ。刹那がアニューを撃った理由を。だからこそ、更に許せなくて。
そう、刹那は、たくさんの大切な命を奪って来た惺に、これ以上罪を重ねまいとアニューを撃ったんだ。俺の怒りが、彼女に向く事を恐れたんだ。惺の眸[め]は本気だったから。だから、彼女がアニューを殺す前に、刹那は自分の手で自分の意思で彼女を撃ったんだ。
「分かってんだよ…!!」
本当は。
刹那が羨ましい。
俺は何時だって惺を傷付けてばかりだ。
守りたいのに。
「どうして、っ、俺は、っ」
『…――おれはもう二度とニール・ディランディに触れられないのに!!!』
惺の叫びがエンドレスリピートしている。兄さんと違って、きっと俺は一生惺に触れては貰えない。可笑しな話だ。傷付いてるのは絶対に惺の方なのに。俺の方が断然余裕が無いな。
どうすればいいんだ。俺は。
こんなにも、
「愛して、いるのに…っ!!!」
アニューや兄さんの顔が浮かぶ。
ごちゃごちゃして、何が何だか分からない。雁字搦めで動けない闇の中。
ただ、「愛しているのに」とだけ吐き出した。

こんな風に、口にする為の言葉なんかじゃなかった。




2013.04.01

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