学校からの帰り。何時ものように自宅の扉を開いて帰宅。普段は『ただいまー』と一言いうのだが、その日は何故かそんな気分ではなかった。そして、その行為が正解だったのだと、後々感じる事になる。
(ん…?来客か…?)
リビングの方から話し声が聞こえる。父さんと、もう一人の男。あと、女の声。父さんは保守派のトップであるから、結構話し合いや会合なんかが設けられるけど、そう言う時は何時も保守派の隠れ家で行っていた。こうして、家を直々に訪ねてくるのは珍しい。何か重要な話でもしているのだろうか。
足音を立てずに近寄る。壁に背中を預けて聞き耳を立てた。

『…―――あの子に、一目、会いたいんです。』

女の声。
何故か心臓が煩く音を立てる。どくん、どくん、と。警鐘を鳴らすかのように。
勘の悪くないおれは気付き始めている。
『会わせる事は出来ない。あの子はあなた達を知らない』
『でも、やっと、見付けたのに…っ!』
緊迫した雰囲気。やっぱり。やっぱり。そうだ。
おれの予想は確信に変わる。

『…――私達の、実の子供に…、会わせてください…!!!』

その科白が胸のど真ん中を貫いた。ぼすん、と持っていたバッグが手から落ちる。教科書が廊下に散乱した。
…――今更、何なの。
おれを捨てたお前達が、今更、どのツラを下げて、おれに会いに来たんだよ。
物音に気付いた父さんが『ん?』と立ち上がる。男と女に『ちょっと待っててください』と断ると、此方に近付いて来た。そして、壁に凭れて盗み聞きしていたおれを見付けて、絶句した。
『っ、ナユタ…!!!』
聞いてしまったのか、と言う顔で。
『とう、さん…っ』
その顔に、縋り付くかのように。
『おれは…っ、“父さん”の子供だよね…?』
あんな、おれを一度捨てたような人間に、おれを渡したりなんか、しないよね?
父さんの服を握り締める。
保守派の仕事だってちゃんとする。学校との両立だって頑張る。立派な兵隊になって、この第五区をリーベの手から解放させて見せるから。約束するから。

『あんな人達なんか…っ、嫌だよぉ…!!!』



「…―――惺?」

おれを呼ぶ声で、目が覚めた。
目の前に広がったロックオンの顔に、おれは一瞬だけ目を見開いた。彼は眉間に皺を寄せておれの目尻に指先を添えた。
「…大丈夫か…?…泣いてた…」
親指が優しく涙を拭う。おれはロックオンと同じように、困った表情を浮かべながら、「遠い、昔の夢を、見た」と告げる。
「よしよし。怖かったな」
怖かった訳ではないが、おれの頭を撫でるロックオンの掌が気持ち良かったから、何も言わずにそのままでいる事にした。
不思議だな。
血の繋がった両親には愛されなかったと言うのに。両親からの愛は拒んだと言うのに。血の繋がっていない父さんやドクターやロックオンの愛は心地好いんだ。こうして、ロックオンに抱き締められているだけで、安心する。
彼に愛される為に、両親の愛が貰えなかったのかも知れない。そう思うと、幾分か心が軽くなる。
(ばかだな、おれ)
両親の愛よりも、ロックオンの愛を真っ先に取ってしまうなんて。
「…大丈夫か?」
再び降り注ぐ科白。
おれはにっこりと笑った。
「大丈夫だけど…抱き締めてくれる?」
ロックオンもにっこりと笑った。

「りょーかい。」




2013.03.22

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