『…――とーさん、とーさん、血のつながりってなぁに』
『…――え、っ…?』
『おとなりのユーくんがね、わたしととーさん、血がつながってないってゆうの』
蝋燭の火がゆらゆらと風に晒されて不安定に揺れているように。おれはずっとこの言い様も無い遣る瀬無さに襲われていたんだ。ずっと、ずっと、ずっと。
『…――おれはお前に嘘は吐かないよ。だから正直に言う。おれはお前の本当の父さんじゃないんだよ』
幼い頃の記憶。目の前の男が本当の父親ではなかったとあの時告げられた。当時のおれはまだ幼すぎた。目の前の男を拒絶するでも享受するでもなく、『ふぅん、そうなんだ』と、ただその事実を飲み込んだだけだった。
『…――でも、おれはお前を本当の娘のように愛するよ。』
あれから、幼いながら、たまに思った。
本当の母親と父親ですら自分を捨てたのに、この目の前の赤の他人は此処まで愛を注いでくれる。それは何故なのだろうか。
“同情”と言う単語も、その意味も知らない幼いおれは、ずっと考えていたんだ。
そこで、辿り着いた。
血の繋がりとは何だろう、と。
『とーさん、血のつながりってなぁに?血って、なんなのかな?』
そう問うたおれに、“父さん”は泣きそうな顔で返したんだ。
『とーさんにも、分からない、よ』





『…―――ナユタッ!!!何をやってんだ!!!!』
カラン、と冷たい床にカッターが落ちる。続いて、ポチャン、と何処か抜けた音。おれは至って普通に父さんを迎えた。
『とーさんっ、おかえりっ、!あのね、わたしねっ、血ってなんだろうなぁって思ったらね、』
にこぉ、と、
赤色に塗れたその笑顔で。
『…――がまんできなかったの!』

その、血でいっぱいの、両手を広げて。

『わたしの中からたっくさんでてくるよ!すごいよっ!見て見てっ!とーさん、血って、赤くてきれいだね!』

父さんの、絶望したような顔が瞼から離れない。
今なら分かる。
歯車は、最初から狂っていたのだ、と。




2013.03.12

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