夜の日本にて。「ちょっと暇を貰ったからついて来いよ」とロックオンに連れられた先は何処かのお祭りだった。田舎のこぢんまりしたお祭り。近くの神社が主催しているらしい。辺り一帯は屋台がたくさん並んでいて、オレンジ色の光が優しくおれ達を包んでいる。
「わぁ…」
思わず口に出してしまった。
おれの出身は地図にも載っていない小さな島だ。当時は内戦もあって荒れていたから、お祭りやイベントのような類いは何も無かった。だからおれはこのようなものには一切参加した事が無い。初めて見る光景に、おれの胸は柄にもなく高鳴る。ロックオンはそんなおれの気持ちをお見通しだったらしい。にっこりとおれを見下ろして「やっぱり喜んでくれた」と、満足そうに告げた。
「おれ、お祭り初めてなんだ…。すごい…。なあ、あれは何?」
「あれは金魚すくいだ。いってみるか?」
「金魚すくい?わ、いっぱい金魚いる」
水槽を見下ろすおれの頭を撫でるロックオン。何時もなら人前だと恥ずかしくて振り払うが、今はそんな事を気にする余裕は無い。目に入るもの全てが新鮮だ。あれを見たりこれを見たり、と、瞳が忙しなく動く。
「ロックオンっ、これ、すごいなっ。なっ、あれは何っ?」
彼は「可愛いなぁもう」と言った後に「あれはお面だよ」と教えてくれた。色々な顔が並んでいる。今流行りのアニメキャラクターやら戦隊もののお面。
「ひとつ買ってやるか。何がいい?」
「じゃあ、あのひょっとこがいい」
ロックオンは「ふはっ」と笑いながら「微妙なチョイスだな。可愛いのいっぱいあるのに」と言う。しかし何だかんだ言ってひょっとこのお面を買ってくれた。
「動くな?今つけてやるから」
「自分で出来るよ」
「いーの。俺がやりたいの」
にこっ、と笑ってお面をつけてくれる。はらり、と落ちたおれの髪の毛を指先で優しく耳にかけると、「あー可愛い…」と、本日何度目かのお言葉を頂戴した。今の彼は何時ものしっかりした雰囲気が微塵も感じられない。ソレスタルビーングだとかガンダムマイスターだとかを忘れて、純粋に恋人同士の時間を楽しんでいるように見える。
「ロックオン、ありがとう」
「別に。安かったし構わないよ」
「ん、それじゃなくて。いや、それもあるけど…」
ロックオンは「じゃあなんだ?」と問うた。
「連れて来てくれて、ありがと」
素っ気なく告げると、ロックオンの頬が僅かに赤みを帯びる。彼は今日たくさん「可愛い可愛い」と連呼していたが、おれからすれば彼の方が可愛いように思える。こんな風に、年上だから冷静でいようとしているのに不意に余裕が無くなったりするところとかが。
おれは、彼の手を握った。
指と指を強く絡ませて。
「…今は、皆居ないし…、甘えて良いよな…?」
「ああ。勿論」
ロックオンは微笑んだ。
ぎゅう、と力強く手を握り締めてくる。照れているのだろうか。そんな事を考えながら彼を見上げていると、不意に腰を引き寄せられた。
「やばい、惺」
近くに居る人達に聞かれないように、耳許で囁いた。妙に甘さを帯びたその不意討ちの吐息に、腰から背骨にかけてビリビリと電気に似た何かが走った。
「…ロックオン、どうした…?」
まさかとは思うが。
ロックオンはにっこりと微笑んだ後、おれの耳を舐めた。
「…んっ、!」
(…っ!!!!!!)
ぴしり、と身体が固まる。いきなりの事態に頭がついていかない。彼が外でこんな事をするなんて珍しい。一体どうしたんだよ。そんな混乱したおれを余所に、ロックオンは再びにっこり笑った。
「俺、可愛いお前をずっと見てたら、息子が大変な事になった」
さらり、と暴露。恐る恐る彼の下半身を確認すると、まあ、元気な息子さんですね。
「なっ、なんで…っ!!!」
(お前の理性脆すぎだろ!どうしてそんなに簡単に勃っちゃうんだよ!)
逃げたいけど、手を繋いでるせいで逃げられない。まさか、こんな事になるとは全然思わなかった。ロックオンのスイッチを完全に押してしまった。
「よし。今すぐ帰ろう。たっぷり愛してやる」
「いや、ちょ…ロックオ…」
否定の言葉を紡ぐ前に、ぐいっ、と手を引かれる。そのまま抱き抱えられて強制連行。人混みの中でこれはある種の羞恥プレイだ。
「あ〜、もう…!!!」
仕方無い。今回は腹を括ろう。
こうなった彼は止まらないのを嫌と言う程知っている。
今回だけ、特別に付き合ってやろう。

「今度お祭り来る時は浴衣着て来ような?」

おれを抱きながらそう告げる。
ロックオン、お前の描く未来にはちゃんとおれが居るんだな、なんて嬉しくなる。
おれは「そうだな。浴衣着て来ようか」と頷くと、「ロックオン…」と直ぐに続けた。
「ん?なんだー?」
「…好きだよ」
そっと囁けば、「やめろよ我慢出来なくなるだろ」と言う科白と共に、小さな接吻が舞い降りた。




2013.02.23

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