「スメラギさん、流石にこれは…」
「暇なんだから仕方無いわよ。ほら、折角惺が付き合ってくれるんだから〜」

ミス・スメラギとアレルヤの会話が何処からともなく聞こえて来た。
俺――ロックオン・ストラトスは、声の聞こえて来た方向に足を進める。惺の名前が聞こえて来たし、行ってみて何をしているのか確かめてみよう。
長い廊下を早足で歩く。声が大きかったせいか近くに感じたが、意外と遠い場所で会話をしているらしい。
因みに今ガンダムマイスターと一部のクルー達は地上の王留美の隠れ家に居る。ミッションを無事に終えて、これからどうするのか様子見をしているところだ。
そして俺は気分転換に街を散歩して帰って来たばかりである。
さて、閑話休題。
漸く二人の姿が見えて来た。どうやら惺の部屋の前で会話していたらしい。俺は「お二人さん、何してるんだぁ?」と片手を振りながら近寄った。
「あら、丁度良かったわ。ロックオン、貴方今から病人ね」
ミス・スメラギの科白の意味が良く理解出来なかった。
「え?」と問い返すと、彼女は「折角惺がやる気になってるのよ!」と声を荒らげる。
アレルヤは困った顔を浮かべた。
「スメラギさん、惺のプリンを人質にして巻き込んじゃったんだ…」
指差す先にはプリン。CMで見たことがある。これは結構高めの品物である。
「確かに、これを人質にされたら堪らんな」
と、無難に返した。が、問題に差し掛かる。彼女は一体何に協力させられてるのだろうか。
「あのさ…」と口を開いた瞬間、ミス・スメラギが俺の心境を察したのかニッコリと笑った。
「知りたければこの中に入る事ね」
と、惺の部屋を指差す。
これは、入って確かめなければいけないパターンなのか。
俺は困り果てた。アレルヤも止めてはくれない。
暫く考えていたが、惺が悪い事に手を貸している訳では無いと思うから、入ってみようと決意した。

「ロックオン、くれぐれも貴方は病人だからね」

ミス・スメラギの言葉を背に、俺は扉を開いた。







入った瞬間、危険信号が点滅した。
脳内ではアラームが鳴り響く。
冷や汗が流れて来る。だって勝てる気がしない。
嵌められた、と俺は今更ながらに思った。
危険信号が止まない。先程よりも主張している。危ない。
しかし、危険、と言っても身の危険の類いではない。

俺の理性が崩壊する危険、だ。

「あ、え、っ、惺…っ」
情けなく口から出た言葉は文にすらなっていなかった。だって、部屋に入るなりこんな光景を見せられたら誰だってこうなるさ。
俺は、扉の前に立ち竦んだまま、惺を見詰めた。ただし、何時もとは雰囲気が全く違う。

白衣を纏った、女医の姿の惺、だ。

惺は、入って来た俺を見るなり、僅かに恥ずかしそうに瞳を逸らしたが、何とか「そこに掛けてください」と丸椅子を指差した。プリンを人質にされているせいか、嫌々そうにしながらも演技をしている。
俺は取り敢えず丸椅子に座った。「どうしたんだよ惺…」と訊ねたが、「今のおれは先生です。ストラトスさん」と返されてしまった。
ファイルのようなものを片手に俺を見る。
「今日は、どうなされましたか?」
「え、あ、あぁ…」
どうすれば良いのか迷ったが、ミス・スメラギの言っていた「今から病人ね」と言う科白を思い出す。吃りながら「き、気分が悪くて…」と答えた。
やばいな、これ。身体が熱い。惺の女医姿が妙にソソる。絶妙なスカートの長さと、スラリと伸びた脚。今すぐかぶり付きたい。めちゃくちゃ。
「どこら辺が悪いですか?」
「む、胸の辺り…かな?」
正直に言おう。気分が悪いと言うよりはムラムラする。ああ、認めよう。超絶ムラムラする。
惺は「うーん…」と唸る。小さい声で「次は何だっけか…」と呟いている。恐らくミス・スメラギから受けた指示を思い出しているのだろう。
「…あ、そうだった」
惺は首に掛けていた聴診器を取った。何処で手に入れたのだろうか、と疑問に思いつつ彼女を見詰めた。
「ちょっと心臓の音聴きますね?」
上目遣いで告げられる。バクンと跳ねる心臓。やばい。余裕なんて無い。心臓の音を聴かれてしまったら、こんなにもドキドキ(ムラムラとも言う)しているのがバレてしまう。
「胸見せて?服上げてくれる?」
そう言われるがまま、服をたくし上げる。冷たい空気に晒されて一瞬だけ身震いした。だけどドキドキは止まらない。
聴診器が胸元に当てられる。ヒヤリとした感覚にピクリと身体が跳ねる。
「ん、…っ」
我慢しながら惺を見詰めると、彼女は一生懸命俺の心音を聴いている。実際にこんな女医さんが居たら逆に病気が悪化するだろうなぁ、と不謹慎にも思った。
「…心臓、ちょっとはやい」
「そう、か?」
見上げてくる惺に、熱が駆け巡る。やばいな。本格的にやばいな。その顔はやばいな。
俺の気持ちに気付かずに惺は「えーと…」と先程と同じく指示を確認している。そんな姿にまでムラムラする。惺が全力で俺の理性を壊しにかかっている。
しかし、暫くすると、面倒だったのか「じゃあ、お薬出しておきますね」と無理矢理完結させてしまった惺。
俺はそんな彼女の腕を思わず掴んでしまった。
そうだぜ。こんなオイシイ展開を簡単に完結させて堪るか。
「え?ロックオン?」
思わず素に戻る惺。だけど逃がさない。逃がしてやらない。
「先生、俺、別のところが具合悪くなったみたい」
惺は急に演技に積極的になった俺に戸惑いながらも「ど、何処…?」と、親切にも俺の演技に付き合ってくれた。
俺は、掴んだままの惺の掌を“そこ”に誘導すると、


「ここが熱くて堪らないんだ…っ」


熱を孕んだ瞳で。


「触診、してくれる?」


そう、問うた。
びっくりして声も出ない惺。きっとこの後自分がどうなるか分かってしまったのだろう。
「きょ、今日の診察は終了して…」
「先生は病人を見捨てるのか?」
残念だったな。惺。もうお前は逃げられない。
俺の“病”を治すまで、付き合ってもらうからな。
「先生が触診してくれないなら、」


「俺、先生に注射しちゃうからな?」


ニッコリ。
惺の怯えた表情が、目に入ると同時に、
俺の理性は呆気なく崩れた。











「…スメラギさん、こうなる事分かってましたよね?」

「だって暇だったのよ。あー、楽しかったわ」


部屋の外でそんな会話がされていた事に、一切気付かなかったのだった。




2013.01.22

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