トレミーに帰ったら、中はパーティーでもやるのか、と言う程にきらびやかだった。
今日は何かあるのかと考える。
(ああ、そう言えば今日はクリスマスか)
納得。
そう言えば、地上ではイルミネーションが凄かったな。
飾り付けをしているフェルトに「メリークリスマス」と一言。
彼女は「メリークリスマス、ライル」と笑顔で返してくれた。
「今日は皆でクリスマスパーティーか?」
「うん。でもちょっと違うかな」
「じゃあ何だ?」
フェルトに訊ねる。しかし、その問いに答えてくれたのは彼女ではなく、その横にいたティエリア。
「12月25日は惺の誕生日なんだ」
「え?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
そんな事知らなかったんですけど。
「惺の誕生日って今日だったんだ…」
「まあ、正確には違うが」
「へ?違うの?」
ティエリアは頷いた。小さく「そんな事も知らないのか」と呟く。
ちょっと傷付いたんですけど。
「…惺は記憶障害だったんだ。¨夏端月惺¨は知っているだろう?…彼女の事は憶えているのに、自分の事は思い出せない。本名も、誕生日も、年齢も」
「え、でも…惺は¨おれの本名はナユタ¨って言ってたけど…」
「思い出したんだ。頭に何等かの衝撃を受けてな」
「…大変だったんだな、惺…」
フェルトがティエリアの言葉を引き継ぐ。
「でね、惺の記憶が無かった時に、誕生日が無いのは悲しいって、皆で惺の誕生日を考えてあげたの」
「優しいな、皆は」
フェルトは笑う。
「結果的に惺は記憶全部思い出しちゃったんだけどね。それでも¨誕生日が二つあるなんて、おれは幸せ者だ¨って笑ってくれたの」
彼女らしいな、と思った。
何時もはポーカーフェイスだけど、誕生日を作ってもらった時は、きっと嬉しそうに微笑んだんだろうな、と密かに思いを馳せる。
「だから、今日は惺の誕生日パーティーとクリスマスパーティーなの」
「そうか、それは楽しみだな」
と、そこまで言って、俺は大変な事に気付いた。
プレゼント、用意してない。
「なあ、ティエリア、俺プレゼント用意してないんだが…」
「だろうな」
「俺自身をプレゼントは?」
「万死に値する。」
「や、冗談だって。睨むなよ!」
目が本気だ。
ティエリアは惺の事となると人が変わる。
それだけ彼女を大切に思っていると言う証拠だが、彼女を密かに愛している俺としては何か複雑な気分。
「…あ、惺にプレゼントを用意しなくてもいいわよ。もう既に用意してあるもの」
ミス・スメラギの声。
「用意してあるって…何を…?」
と、訊ねた瞬間、ミス・スメラギは笑った。そして袋の中から大量の飴玉を見せる。
「ストロベリー…キャンディー…?」
「そう。ストロベリーキャンディーよ」
呆気にとられた。
何て言うか…、
「こんな、安っぽい飴玉でいいのか…?」
思わず言ってしまった。
だって、惺と飴玉って滅茶苦茶似合わない。ミスマッチ。
ミス・スメラギはくすくすと笑っている。後ろのアレルヤまで笑っている。何だ。ちょっとムカつく。
「惺が受け取るとは思わないが…」
「じゃあ、確かめてみる?」
ミス・スメラギが飴玉を一つ俺に手渡した。え?袋じゃなくて一個だけ?まじで?
俺の混乱を余所に「スメラギさん!飾り付け出来たですー!」と、ミレイナの声。
「ありがとう。じゃあ、惺を呼びましょうか」
え?呼んじゃうの?俺、本気でプレゼント飴玉一個かよ。
「ミ、ミス・スメラギ…」
しかし、俺の科白は横の刹那に遮られてしまう。
「ライル、」
「何だよ…。どうせお前は飴玉以外のプレゼントを用意してんだろ?」
刹那は苦笑を浮かべた。
「そんな事はいいから、飴をあげてみろ。癖になるぞ」
「癖になる…?」
刹那の科白の意味が分からなかった。
結局、俺は飴玉を握り締めたまま彼女を迎えてしまった。

「ハッピーバースデー!惺!」
クラッカーの音が響く。
惺は、部屋に入った途端にクラッカーを鳴らされて驚いたよう。そして、固まった。
「…そうか、おれ、誕生日だ。」
「うん。そうよ。おめでとう」
ミス・スメラギが惺を抱き締める。ぐしゃぐしゃと彼女の髪の毛を掻き乱して再びギューッと抱き締めた。
嫌がると思いきや、彼女は何処か嬉しそうな顔で髪の毛を整えている。
「惺、私も」
「ミレイナもですーっ!」
ミス・スメラギに続いてフェルトとミレイナも彼女を抱き締めた。
あー、何か和む。
と、そこまで考えて思い出した。
俺、飴玉どうしよう。
妙に温かいその飴玉を見据えた。
これで惺が受け取ってくれなかったら、皆狙い撃ってやる。
チラリ、と刹那を見る。彼は「今だ」と言うように頷いた。

「…惺」
「ん?」
俺の声に振り向く彼女。やばい、可愛い。不謹慎だけど、可愛い。
俺は飴玉を握り締めた。
よし、覚悟決めたぜ。
ライル、行っきまーす。

「ハッピーバースデー、惺。……これ、」

ゆっくりと右手を差し出し、
グーだった掌をパーに開く。
「…これ、は…」
惺は固まった。否、絶句と言った方が近いかも知れない。
(え!!?刹那の嘘つき!!!!!)
飴玉を投げ捨てて泣きたくなった。

が、
惺はそんな俺の掌から飴玉を取った。
じっ、とそれを見詰め、何かを思い出すかのように瞳を細める。
「…惺?」
と名前を呼んだ瞬間、彼女は俺を見上げ、

はにかむように微笑んだ。

「……っ!!!!!」
い、いまっ、頭の中でズキューンって鳴った。やばい。やばい。これは、やばい。可愛い!超絶可愛い!
「おれ、これ好き…」
そう言って包みを開けて、口に含んだ。
「ありがとう、ライル」
と、ご丁寧にお礼まで言うもんだから、俺はノックアウト。
心臓を狙い撃たれた。
成る程。刹那の言ってた事が理解出来た。これは癖になる。
チラリと刹那を見ると、何処か楽しそうな刹那の顔。その横には、面白そうに俺達を見据えるティエリア。
「…言っただろ?」
そう言った刹那に、俺は苦笑しながら「破壊力抜群」と答えた。
再びフェルトとミレイナに捕まっている惺を見詰める。
「…今度から飴玉常備しようかな…」
その背中を見ながら、呟いた。




2012.12.07

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