正臨正?



夕陽が窓から差し込んできて、教室を真
っ赤に染め上げている。先程までまだ明
るかった筈なのだが、忘れ物を取りに来
てそのまま何となく自分の席で窓の外を
見ていたらうとうとしてきて…、それか
ら記憶が無い。そして、今に至る。どん
だけ寝てたんだ、俺。大きな欠伸をひと
つして、まだぼんやりとしていて覚醒し
ていない頭で時計を見ると短い針が真下
を向いていた。あれ、何時にここに来た
んだっけ。             
今にも閉じてしまいそうな眸を片手で擦
っていると教室の扉が突然開いた。  

「あれ?正臣くん、まだ居たんだ。さっ
さと帰んなきゃ駄目でしょ」     

ぴたっと眸を擦っていた手を離し、声の
主(すぐにわかったが、条件反射という
やつだ)を確かめるために扉を見た。そこに居たのは、予想通り自分のクラスの担
任であり恋人の男だった。      

「…先生、」            
「あ、もしかして俺のこと待ってたの?
」                 

唇ににやにやと苛立ちを覚えるような笑
みをはり付けながら窓側の後ろから二番
目という微妙な位置の俺の席へと歩み寄
ってくる。紡がれた言葉(というより、
言い方)が唇にはり付いた笑みよりも苛
立ちを感じていや、その笑みにプラスさ
れてより一段と苛立ちが増幅したので間
髪入れずに違いますと感情の籠もらない
口調で否定してやった。       
すると、彼は大して傷付いた様子も見せ
ずにわざとらしい仕草で肩を竦めて困っ
たように両手を広げてみせた。    

「うわ、即答?相変わらず冷たいなぁ、
君は」               
「忘れ物取りに来ただけなんで、もう帰
りますよ」             

それだけ言って、横に置いてあった鞄を
掴み教室から立ち去ろうと腰を上げたの
だが、トンと彼の真っ白で長細い綺麗な
指が伸びる手のひらが机の上に置かれ、
整った顔立ちが目の前に現れて制された
。覗き込んでくる見慣れた顔にどきりと
してしまいそれがバレてしまわないよう
にと視線を逸らした。まぁ、彼にはそん
なことバレバレなんだろうけど。   
…面白そうに歪む唇がその証拠だ。  

「…ほんとに帰っちゃうんだ?」    
「臨也さんが帰れって言ったんでしょう
」                 
「そこは、嘘でも臨也さんを待ってたん
 ですとか言うところだろ、」    

呆れたような表情で溜め息混じりに言わ
れたから、             

「…ほんとは臨也さんをずっと待ってた
んです。まあ、うそっすけど」    

と棒読みで言ってあげた。      
じゃあ、帰りますから、と席から離れよ
うとしたのだが、またそれは止められた
。今度は手首を掴まれて。      

「酷いなぁ、それが恋人に対する態度?
もうちょっと優しくしてよ。帝人くんに
はデレるくせに俺にはデレてくれないん
だ?それじゃあ、ツンデレじゃなくてツ
ンだけになっちゃうじゃん、それとも俺
のこと嫌いなの?いや、嫌いなら嫌いで
別に良いんだけどさ、困るのは君じゃな
いのかい?だって、君、俺のこと大好、
…っん、」             

ペラペラとよく動くうざったい口を自ら
のそれで塞いだ。何やら、この上なく恥
ずかしいことを言われそうになったよう
な気がするが敢えて聞こえなかったふり
をした。              

「ん、ふ…ぁ、」          

開いていた唇の隙間から舌を滑り込ませ
て、絡ませるとこの人は今の今まで余裕
げに憎たらしく笑いながら喋り続けてい
た人物とは思えない変わりようをみせる
。俺の手首を掴んだままだった彼の手に
少しだけ力がこもった。       
彼は俺と付き合う前にも色んな奴と付き
合っていたらしいがキスだけは頑として
させなかったという(ちなみに本人から
聞いたわけではない)。そのため、キス
に関しては経験は少ない(はずだ)からそ
れは俺よりも下なわけで。      

そう長くもない短いキスだけで、すぐに
呼吸が上がってしまう彼をみるたびにち
ょっとした優越感に浸ってしまうだなん
てことは絶対に口に出せない。出したく
もない。              

「は、…ぁ」            

頬にほんのりと赤が差しており、眸には
薄く涙の膜が張っている。…こうやって
黙っていたら可愛いのに。      

「やっぱり俺のこと、大好きなんだ」 
「……」              

ほら。呼吸が整っていつもの調子を取り
戻した途端にこれだ。あぁ、逆に清々し
く思える程の憎らしい表情。     
黙ったままでいたら、俺の手首から手が
離れた。              

「…じゃあ、早く帰りなよ」     

素っ気なく、臨也さんは俺に背を向けて
、教室から出て行こうとする。    
──自分から、言ってきたくせにそんな
に呆気なく俺から離れていくのかよ。
そう考えた瞬間に勝手に口が先走ってい
た。                

「臨也さんこそ、早く仕事終わらせてく
ださいよ。じゃねーと、俺、帰れないん
で」                

振り向いた臨也さんの表情はいつもと変
わらず憎らしくて、ああ嵌められたと分
かったときにはもう既に手遅れで、この
赤くなった頬をどうやって隠そうかと思
案するのを優先した。        





 確信犯的、犯行。
 (あんな憎らしい表情すら、可愛いと思えてきている
  俺の頭はやはりもう末期なんだろうな)











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