静臨←帝




「帝人、くん…?」         

驚きを含む瞳で此方を見上げてくる彼を
みて、にやりと口角が上がった気がした
。                 


* * *


どうして、あの人は僕のものにならない
んだろう。考えても考えても、返ってく
る答えはすべて同じ。…あの人は既に僕
じゃない誰かのものだから、だ。   
初めて彼に出会ったとき、自分に向けら
れたあの紅い瞳に吸い込まれそうだった
。心臓の鼓動が早くなっていくのを感じ
ていた。しかし、彼のその瞳の奥では僕
のことなんか、欠片も映ってやしなかっ
た。見えるのは、サングラスをかけた金
髪の、バーテン服を着た男だった。殺し
合いだなんだと言いながらも2人の眼に
はお互いの姿しか映っていないのだ。他
の人を寄せつけない、2人だけの空間を
造り上げているようにみえる。いや、造
っているのだろうか。        
だからこそ。            
だからこそ、僕は彼が欲しくなった。自
分にだけ、あの紅い瞳を向けていてほし
い。他の男など、決して映さずに。  


* * *


路地裏に人影が見えた。丁度、園原さん
と別れたところで1人だったから、好奇
心でその人影に近付いていった。薄暗い
路地裏へとそっと足を進めていくと座り
込んだ真っ黒い背中が見えた。僕の足音
に気付いていないのか、振り向きもして
いないが見覚えのありすぎる背中とその
背中にかけられているファーのついたコ
ートにほぼ確信を持ちながら控えめな声
で名を呼んだ。           

「…臨也さん…?」         

彼の肩がびくんと大袈裟に揺れた。だが
、振り向くこともせず、僕の言葉に反応
もしない。いつもと様子がおかしい彼に
、気になって横にまわってみると薄暗い
この場所とは正反対の真っ白なすらりと
した脚があった。黒いコートからのびる
、細い太腿は辺りが薄暗いのとコートが
黒いせいで一層その白さが引き立ってい
るようだった。           
だが、驚いたのはコートの下には薄いシ
ャツ以外何も着けていないということだ
った。よく見れば、太腿の内側には赤い
痕が点々とあり、それに加えて白濁が伝
っていて、誰がみても明らかに情事後だ
とわかる状況だった。僕の視線を感じた
のか、彼が俯いていた顔を上げた。そう
時間は経っていないのかまだ瞳は僅かに
潤んでいて、頬も赤みを帯びていた。そ
の光景はひどく扇情的で思わず、ごくり
と喉を鳴らした。          

「あれ?帝人くん。久しぶりだね、どう
したの?高校生が1人でこんなところに
来たら危ないよ。ほら、君って明らかに
気が弱そうな外見してるしさ。そういう
奴等には狙われやすいんだから、気をつ
けないと」             

今のこの状況を感じさせないような口振
りでいつものようにぺらぺらと口を動か
しつつも、僕の視線の先がどこにあるの
か気付いたのか、コートを引っ張って太
腿を覆い隠した。          

「臨也さんこそ、どうしたんですか?…
その、」              
「、」               

僕が問うと臨也さんは一瞬だけその整っ
た顔を歪めたが、すぐに…別になんでも
ないよ、と誤魔化した。此方に向けられ
た瞳の奥はぼやけて何も見えなかった。

「あのさ、悪いんだけどそこに落ちてる
服、取ってくれないかな」      

指差した先にはズボンが乱暴に置かれて
いて、言われた通りにそれを取って渡そ
うとするが。            

「…どういうつもり?」        

受け取るために差し出された手にズボン
を渡すことはしない。訝しげに見つめる
今は僕だけを映している鋭いその紅い瞳
にぞくぞくした。          

「静雄さん、」           
「っ…」              

その名前を言っただけなのに肩を震わせ
息を詰まらせる臨也さんを見て、あの彼
をここまでにさせる彼が想いを寄せる相
手を思い出し少なからず嫉妬した。  

「何かあったんですか?静雄さんと。」
「…君には関係ないだろう」     
「ありますよ」           
「なんで、」            

気付いたら、彼の言葉を遮るように口付
けていた。行動を起こしてから、今現在
自分がなんということをしてしまってい
るのかと思い改めて、彼のいつも持ち歩
いているナイフで刺されてしまうのでは
ないかと覚悟を決めながらも唇を離すこ
とは出来なかった。だが、予想外なこと
に臨也さんは抵抗はしなかった。ただ、
じっと感情の無い眼で僕を見つめている
だけで。              

「、は…。…あぁ、俺とヤりたいの?い
いよ、別に。そんなに溜まってんなら、
口ででもなんでもやってあげようか?」

にやっと煽るように眼を細めて笑う彼は
、あまりにも艶やかで思わず眼をそらし
た。その途端、手首を引っ張られバラン
スを崩して仰向けに倒されてしまった。
背中を打って痛かったけど、そんなこと
思う暇もなく唇を奪われて驚いて相手を
みた。馬乗りされている状況がいまいち
理解出来なくて間抜けた面をしていたら
、哀しそうに彼が口端を上げて笑うから
わかってしまった。         
わかっている。           
けれども、自分の行動を制御することは
不可能だった。           

コートが地面に広がって露わになった真
っ白い肌に自分じゃない、違う男の──
彼の恋人、平和島静雄が付けた鎖骨にあ
る紅い痕の上に口付けた。ぴくりと身じ
ろぐ、愛しい彼の口元は愉しげでしかし
嘲笑するように歪んでいたが見えないフ
リをした。             

「好きです、臨也さん」       









身代わり人形
(たとえ、あの人の代わりでも)













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