静臨



 君たちは似たもの同士だね。

 以前に新羅からそのようなとても不愉快
 な言葉をもらったことがある。何処がな
 のかがわからなくて訊き返したのだが、
 新羅は俺にソファーの上で土下座して謝
 ってきてそれから何も言わなかった。も
 う一度訊こうとしたのだけれど、臨也が
 茶化してきて僕の家で喧嘩しないでよ治
 療も済んだんだからあとは外でやってと
 追い出されて結局訊けなかった。




 瞼を閉じてから一体どれくらいの時間が
 経ったのだろう。久々に共に朝を迎えら
 れる。休みが重なったのだ。こんなとき
 以外は滅多に連絡を寄越さない臨也から
 の着信に携帯が震えたから、もしやと期
 待を胸に抱きながら出てみれば短く伝え
 られた用件に携帯を持つ手に力が入る。
 小さく悲鳴を上げた携帯に気付いてぱっ
 と力を緩めたら、携帯壊さないようにね
 と臨也にも聞こえたのか笑いながら注意
 された。そして素っ気なく最後に言葉を
 付け足されて切れた電話。きっとあのと
 きの臨也は面白いほど、顔を真っ赤にし
 てただろう。どうせなら見たかったとも
 思うが、直接会うときにいくらでもみれ
 るのだから別にいい。
 俺が臨也のマンションに行き、玄関を開
 けてくれた臨也の表情は嬉しさが隠しき
 れていなくて、一応本人は隠しているつ
 もりなんだろうけどこちらからみたら嬉
 しいと思っているのがバレバレで、それ
 はもう可愛かった。
 臨也の手料理を久々に口にできて、それ
 から少し世間話をしていたけど、襟を掴
 まれ不意打ちに仕掛けてきた臨也からの
 キスを合図に流れるように情事に至った
 。お互い、獣のように貪りあって臨也が
 意識を飛ばしてしまったところで我に返
 った。時刻は次の日の午前1時で、ぐっ
 たりとして赤い眸が閉じられている臨也
 が視界に映って自分に嫌悪感すら覚えた
 。

 「っ、シズ…ちゃん、」
 「シ、ズちゃん、シズちゃ…っ、」

 眠りが浅かったため、臨也の俺を呼ぶ声
 が聞こえてすぐに目が覚めた。至近距離
 に臨也の綺麗な黒髪がみえる。俺の胸板
 に顔を押し当てて啜り泣くような声を出
 す臨也にもしかしてやりすぎたのだろう
 かとそう思って、痛むのかと問う。寝起
 きで声が掠れていたのだが、臨也にはち
 ゃんと伝わったようで臨也はでこを押し
 つけるようにしながら首を横に振って否
 定した。ならば、どうしたのだ。そう訊
 ねるが。

 「シズ、ちゃん、っ…シ、ズちゃ、ん…
 シズ、っ」

 臨也は壊れたラジカセのように俺の名を
 何度も何度も呼び続ける。昼間とはまっ
 たく違う一面に俺は戸惑いを隠せないで
 いた。それでも、落ち着かせようと優し
 く、名前を呼び返してやる。何時間か前
 にはいま寝転んでいる真っ白いシーツの
 上で乱れていたのにも関わらず、さらさ
 らとすんなりと指の通る髪を撫でた。

 「、おれから…離れない、で…っ、」

 泣き声に混じって零れた小さな小さな臨
 也の心の中に眠っている本当の気持ち。
 髪を撫でていた手が止まる。俺が臨也、
 とまた名前を呼んだら、薄明るい部屋に
 涙で濡れた顔があらわれた。

 シズちゃんとシたあとは夢見が悪いんだ
 よねぇ。
 いつだかそんなことを言っていたことを
 思い出した。ああそうか、臨也は怖いの
 か。いくら強がってみせたって、平気な
 ふりしていたって、本当は怖いのだろう
 、独りになるのが。いつだって不安で不
 安でたまらない。いつ自分から離れてい
 ってしまうのか、自分が置いていかれる
 のか。誰も本当の自分をみてくれない。
 近付いてくるやつなんか、ただの好奇心
 が理由なやつしかいなくて。教師にまで
 見放されていた。そんななか、出逢った
 のは。

 「っ、…すき、」
 「すき、シズちゃ…っ、」

 情けないその泣き顔にキスをする。離れ
 ないように強く強く抱きしめて、俺から
 離れることなんか出来なくなるように深
 く深くキスをした。

 新羅が、いつだか言っていたこと。もう
 忘れかけていたくらい些細なこと。そう
 だ、俺とこいつは似てるよ、呆れるほど
 に。なあ、安心しろよ臨也。俺はお前か
 ら離れることなんてしない、いや、出来
 ない。そして、お前も俺から離れること
 なんか出来ないんだ。お互いがお互い、
 相手に依存して生きている。いつの間に
 か、必要不可欠な存在になっていた。

 泣き疲れて眠った臨也の寝顔をみてから
 俺もまた眠りについた。
 時刻は午前4時をまわっていた。






 依存症
 (トクベツな存在、)








 シズちゃんの前では精神的にちょっと弱い臨也



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