静臨(138side)


ドスのきいた声で俺の名前が叫ばれる。殺気のこもった視線を背中に感じながら今日も俺は彼から逃げる。高校時代に彼と初めて言葉を交わしたあのときから終わることのない鬼ごっこ。道路標識や自販機が飛んでくるときもあるし、ガードレールまでもが投げつけられそうにもなる。
だけど、俺はこの少しでも気を抜けば病院送り、下手すれば死ぬようなこんな危険過ぎる鬼ごっこを彼とするのが楽しかった。一瞬でも彼の視界に入ってしまえば、間髪容れずにもれなく自販機がぶっ飛んでくる。それでも、俺は彼に気付いてもらえたのが嬉しくて。
わざと怒らせるような台詞を吐いたりするのだって、そうしたら俺だけに意識が集中するかななんて思ったり。こんなこと考えるだなんてどこぞの女子高生だと言われそうだが、考えてしまうものは仕方がない。けれども、この気持ちが何なのかわからなかった。どれだけ情報を集めても、こんな大嫌いな奴とする鬼ごっこが楽しいだとか気付いてもらえて嬉しいだとか思ってしまうのが何故なのかわからなくて。
それでも、彼と関わりが無くなるのは嫌だった。もし、追いかけてこなくなったら?気付いてもらえなくなったら?ずきんと痛む胸が苦しかった。そのときだった。一瞬の僅かな隙が出来たのは。
彼との距離は零で、しかも片腕を肩にまわされ拘束されていた。今回ばかりはやばい殺されるかな、なんて思った。

しかし、彼は道のど真ん中だというのに有り得ないことを口にした。彼の不器用さがひしひしと伝わってくる言葉を聞いて、恥ずかしさと共に湧き上がってくるのはこの上ないという程の嬉しさ。
彼の細いながらもがっちりとした腕に流れ落ちた涙を見てやっとわかった。

「っ…みんな見てんじゃん、ばか」




ああ、俺はこの男が大好きだったのか。









臨也くんはとっても嬉しいんです。だって、シズちゃんだいすきだから








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