静臨(420side)



上司と共に昼飯を食いに行こうと人が行き交う歩道を歩いていた。何を食べるかと訊かれたが、とくに食べたいものもなくて強いて言うなら臨也の手料理が、だなんて言えなくてというより言えるはずもなくて、結局近くにあったファーストフード店に行くことに決まったのだが、道路を挟んだ向こう側の歩道に見慣れ過ぎた黒いコートが見えた。くせぇくせぇと思っていたらやっぱり池袋に来ていたのか。
しかし、はっと気付いた。彼の顔に俺には見せたこともないやわらかい笑みが浮かんでいることに。そして、彼の前にいるのは自分もよく知る高校時代からの友人だった。臨也が門田によく懐いていたのは知っている。高校のときからのことだからだ。そのときはまだ何も思わなかった。だが、最近だろうか。臨也が門田にくっついたりするのを見る度に自分の中に苛立ちとどす黒い何かが渦巻くのがわかったのは。それが、嫉妬というものだと理解するのにはそう時間がかからなかった。それからというもの、臨也が俺以外のどんな奴と話していようとその感情に変わりはなかった。
車が通るせいで何度も視界が遮られるが、トラックの列が通る直前。見えてしまったのは、臨也が門田に抱きつく姿。ぐしゃっと片手にあった缶が小さくまるで紙のように丸められた。気付くと眉を思い切り寄せ、トラックの列を睨んでいた。そんな様子に上司がどうしたと訊いてくる。

「…すんません、トムさん。先行っててもらっていいっすか?」

すぐ戻るんで、なんて確信できないことを言ってしまい少し後悔しながらも俺はすぐさまアイツのもとに向かって走り出した。

* * *


俺が傍によると臨也は、にやとむかつく顔をして俺をみたが、門田からは離れようとはしなくて寧ろ更に近付いているようにみえてこめかみに浮かぶ青筋が増えたのがわかった。

「…臨也くーん?手前はよぉ、池袋に来るなって何回言ったらわかんだ?ああ?」
「やぁ、シズちゃん。俺のためにわざわざこっちまで来てくれたんだ。ありがとー。でもね、俺も何回も言ってるけど別に来たくて来てるわけじゃないの。仕事だから仕方なく来てるんだよ、わかる?」
「うるせぇ!そんなこと関係ねぇんだよ、手前が池袋にいるからにはぶっ殺す」

臨也は門田にまわしていた手を離すと態とらしく演技じみた仕草でやれやれとでも言いたげに肩を竦めてみせた。手身近にあった標識を片手で引っこ抜くと臨也がきゃー怖いだのなんだのと騒ぎながらまた少し離れていた門田の後ろに隠れた。

「ドタチン助けてー」

横からによによと小馬鹿にしたような笑みをはりつけた臨也が顔を出しているのにぶちっと頭の中で何かが切れた音がした。

「臨也ぁぁぁあ!!」
「こわーいっ」
「おい、俺を巻き込むな!」

標識を思い切り振り回す。それでも、門田から離れない臨也を無理やりにでも二人の間を裂こうと標識を振りかざすと臨也は潔く門田から離れ、それじゃまたねドタチンと言い残して走り去ろうとしやがった。それをまた追いかける。

「待ちやがれ臨也ぁ!待たねぇと殺す!」
「待てって言われて待つ馬鹿がどこにいるのさ!大体、シズちゃんは俺が待っても待たなくても殺すでしょ」

そんな言い合いをしつつちょこまかと逃げていた臨也だったが、体力の限界が来たのか道のど真ん中で立ち止まった。くるりと振り向いた臨也の手にはいつもの折りたたみ式のナイフがあってナイフが向けられている先はもちろん俺だった。

「俺もう疲れちゃったからさ、そろそろ終わりにしようよ」

普段以上に早口で言ったのはきっと息が上がっているのを隠すためなんだろうが、そんなもの意味はない。細い肩が上下しているのをみると一目瞭然なのだから。こんなとき、何故だかその頼りなさげな細い肩を俺が守ってやりたくなる。

「手前に指図される筋合いはねぇ」
「シズちゃんだって仕事あるんでしょ?早く戻りなよ。君みたいな化け物を雇ってくれるとこなんてそうそう無いんだから、ちゃんと仕事しないと駄目だよ?」

しかし、守ってやりたいだなんて思っていても言葉よりも先に手が出るのは抑えられないようで。さっき持っていた標識は折れて使い物にならなくなったし近くに手軽な標識はなかったため素手で殴りかかろうと臨也に向かって走っていった。

「っ…」

だが、臨也の頬に向かうはずだった俺の拳はどうしてか俺に背中を向けた臨也の肩を抱いていた。
殴る直前──臨也が背を向ける直前に浮かべた表情を思い出す。
ああ、何故コイツはあんな表情をするんだ。ああやって強がって憎まれ口ばかりまくし立てるくせに、外側だけは強がってみせるくせして本当は誰よりも脆いんだ。一人で何でも抱え込んで抱え込んで自分を追い込めてしまうタイプなくせに。高校で出会ってから、時折みせる今にも崩れそうな、消えてしまいそうな悲しそうな表情。俺からみれば儚げで、俺がずっと守ってやりたい、コイツの表情はそんな気持ちにさせるのだ。誰にも任せられない、コイツは俺が。
そう思った途端、有り得ない言葉を口走ってしまった。でも、それは本心から出たもので。嘘なんかではない。

「おい、クソノミ蟲」
「し…シズちゃん…?」
「俺が一生そばにいてやるから、んな悲しそうな顔すんじゃねぇよ」

きっといままで押し込めてきた感情がついに言葉にされてしまったのだと思う。俺と一緒にいるのにあんなツラするなんて許せねえ。
しかし、言ってから自分でもとんでもないことを言ってしまったと今更ながら焦る。臨也は馬鹿にするだろうか?それとも嫌悪するだろうか?人々の視線が痛いほど突き刺さる。だが、ぽたりと腕に感じた水分に驚きが隠せなくて。
馬鹿にするでもなく嫌悪するでもない照れ隠しの言葉を言って、ふるふると肩を震わす臨也を俺は思い切り強く優しく抱き締めた。






そうか、簡単なことだ。










話の流れが変ですねすみませんんん!言い訳すらできません…。
お詫びに臨也視点も書きましt(わかりやすくするための自己満)
リクエストありがとうございました!

因みに臨也はシズちゃんがドタチンと話しているのをじっとみてきていたのに気づいてます。確信犯です。でも、シズちゃんが好きだってことにはまだ気付いてなかったんです。ただ、シズちゃんが怒るってわかっていたからやったんです。ドタチンは巻き込まれただけ









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