ライオン娘(尊)




ねぇ尊さん、知ってますか?ライオンってリーダーのオス1匹にメス多数の群を作るんです。そのオスは普段狩とか子育てには協力しないんですけど、他のオスから群を守る時は全力をもって命がけで戦うんですって。だから尊さん、私のリーダーである貴方は何もしなくて良いんです。いざという時のために休んでいてください。私達の頂きで不敵に君臨していてください。この程度の事私達に任せてください。

ああ、もしかして私が頼りないですか?そうですね、それは否定できないかもしれません、すみません。でも八田や鎌本、草薙さんだっています。他にもたくさん仲間がいます。ほら、今回だって私が怪我してぱっと見ヤバくなったけど、あと一息でしたしあれくらい八田だけでも綺麗に片付けられたんですよ?御処理はいつも通り草薙さんがきっちり済ませてくれましたし、なんの問題もありません。
だから尊さん、こんな些細ないざこざに手を出す必要なんてないんですよ。全て、メスライオンたる私達にまかせてください。



「うるせぇ、俺はライオンじゃねぇ」
「ひっ」

私の思いの丈を尊さんにぶちまけると、じっとりと睨めつけられた。その威圧に思わず声が出る。でも、ああ、この威圧感、やっぱりこの人は私が慕いついて行くと決めた王なんだと誇らしくなった。
胸中でそんな嬉しさを噛み締めていると、私の腕に巻かれた包帯の上を尊さんの大きな手がなぞる。それがくすぐったくて少し身を捩る。でも、手が包帯越しに傷に触れた時、ずきりと痛みが走り思わず声が出た。

「いっ…!」
「痛むのか」
「はい、少し」

正直に答えれば、ただでさえ深い尊さんの眉間の皺が更に深くなる。しかし威圧感は息を潜め、その手は傷の上を優しく撫でた。

「俺もお前も、ライオンじゃねぇ」

お互い一言も喋らない静寂の中、先にそれを破ったのは尊さんだった。いつも私から話すから、それはとても珍しい。この珍事を無駄にしてはいけないと少し俯いていた顔を急いで上げると、尊さんは心なしか悲しげな色を瞳に湛えていた。

「……尊さん、私は」
「ガキが突っ走んな。黙って後ろにいろ」
「それでも私は、貴方の役に立ちたくて」
「……お前を、クランズマンに認めるべきじゃなかったな」

はぁ、と溜息と共に吐き出された鉛のような言葉が胸にずしんとのしかかる。それは、人生の中で浴びたどんな罵詈雑言よりも私の胸を痛め引き裂き掻き乱した。何故、なんで、そんな事を言うんですか。嫌だ、私は尊さんの側に居たい。

「尊さん、あの、私」

涙が滲む、唇が震えて喉がひくつき、言いたい事が言えない。心がグチャグチャで、何を言いたいのかまとまらない。

「なに泣いてんだ」
「だって、尊さんが…」
「……勘違いしてんじゃねぇ、馬鹿野郎」

またはぁ、と溜息を吐く。ごめんなさい、呆れないで、捨てないで。なにか言わなければいけないのに、悲しくて悲しくて声が出ない。意思に反してどんどん溢れる涙で完全にぼやけた視界、その向こう側で僅かに身動ぎをする音がした。

「助けさせろ、名前」

耳元で声が聞こえる。低くて優しい、安心する声がする。背中に回る腕が、あやすようにポン、ポンと優しく背中を叩いた。胸の苦しさは取れたのに何故かまた涙が溢れて、尊さんのシャツをぐしゃぐしゃに濡らして泣いた。






嗚呼、貴方は優しい。










お返事がなかったので、先日お知らせした通り美咲と同じポジションな特攻娘ヒロインで書かせていただきました。甘くし損ねた感が拭えなくてすみません…。
ミキさんリクエストありがとうございました!




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