どんなに苦しくても悩まされても出会いたくなかったとは思わない、これはそういう幸福

できちゃった(※最低&俗語発言注意)



「猿くん…」
「あ?」
「あの、あのね……生理、来ないの」
「………ふーん」

私の一世一代の勇気を振り絞った告白は、いつも通りの猿くんによってそっけなくそう返された。新聞から顔すら上げてくれない。その姿に、ひくりと喉がひくついた。

確かにまだ検査はしてないから確定事項じゃないけど、それにしたって心当たりがあるんだから少しくらい反応してくれてもいいのに。別に動揺してしてほしいわけじゃないけど、いつもの変わらない淡白な反応に心がずきずきと痛んだ。
昔のドラマみたいお腹蹴られたりしなかっただけ良いのかな。いや、猿くんはそんなことしないとは思うけど。でも普段から言動が冷たいし。意地悪だし。約束を破られたことだっていっぱいある。あれ、ならなんで私はそんな人と一緒に住んでたんだろう。ぐるぐると嫌な事ばかりが頭を巡る。静かにパニックを起こしている私の頭は、なんかよく分からない物質を発しているようで涙腺も緩んできた。滲む視界が煩わしい。

「なんだよその顔。産みたくねぇなら堕ろせば良いだろ」
「そんな簡単に……」

ぐしっと袖で目元を拭うと、忌々しそうに眉を顰める猿くんがいた。それに、ただでさえ凹んでいる気持ちが更に落ち込む。「堕ろせばいい」って言葉はドラマとかで聞いた事があったけど、端から見るのと言われるのじゃ破壊力は断然違う。兎に角、悲しいと思った。強いて言うなら鉛を横隔膜に乗せたような、そんな重みと痛み。

確かに、子供とかは産もうと思って簡単に産めるものじゃない。産んだらその後、責任持ってずーっと世話をしなくちゃいけないんだから。しかも、それにはお金がかかる。だから、今産んだら困るとか言われたら理解できるつもりだった。
でも、この反応は酷いんじゃないかな。この前なまでシたいって言い出したの猿くんなのに。仮にも、まだ小さくても一つの命なのに。
一つ、文句を言ってやろうと口を開く。でも、いざ猿くんの目を見るとそんな反抗心も萎んでしまう。ただ、涙声の問いかけが喉から溢れるだけだ。我ながら情けないほどの質問だった。

「猿くんは、堕した方が良いの……?」
「は?なんでそうなんだよ。んな事一言も言ってねぇだろ」
「で、でも……凄い嫌そうな顔してるし」
「お前が勝手に泣いてるからだろ。それはいいから、兎に角お前の身体のことだし自分で決めろよ。産むなら産むでお前も子供も責任とるし」
「……え?」
「は?」

猿くんの最後の言葉に、思わずひくりと涙腺が緊張する。それによって、とめどなく分泌されていた涙が止まった。最後に残った涙の粒を拭くと、今度は訝し気な顔をしている猿くんが目に映る。

「なんだよ『え?』って」
「だって、責任って……」
「お前……俺が有無を言わさず堕ろせって言うと思ってんのか?」
「……うん」
「お前俺をなんだと思ってんだよ……」

盛大に舌打ちをして、猿くんはがしがしと頭を掻く。ばしんと乱暴にミニテーブルに置かれた新聞の音に、思わず肩が跳ねた。それと同時に反射で閉じてしまった目を恐る恐る開くと、猿くんは座ったまま罰の悪そうな顔をしながら見上げてくる。随分と長い間一緒にいるけど、めったに見られない、珍しい表情だった。

「俺、どっかのチンピラ集団と違って収入安定してるし」
「うん……」
「お前と、もう一人くらい養う自信あるけど」
「………つまり?」
「……これ以上言わせんな」

それだけ言うと、猿くんはぷいっとそっぽを向いてしまった。でも、これって、つまりそういう事だよね。私は確かにそんなに頭がよくないけど、これはそう取っても良い事だと思うから。
そう理解した途端、今までの胸の痛みが嘘みたいに引いていった。その代わりに、なんだかむず痒い気持ちがする。こっちを向いてくれない背中も今はなんだか愛おしく感じてしまって、小さな恨み言をぽそりと呟いた。

「そっち、先に言ってほしかった……」
「うるせぇ。とりあえず明日病院いくぞ」
「はぁい」

乱暴な言葉。いつもと変わらない、そっけない言い方。でも、その後の小さな気遣いが嬉しくて、嬉しくて。さっきまでどうしてこんな人を好きになったんだろうと悩んだのに、私という生き物はどうやら現金なようだ。
ただ、どんなに苦しくても悩まされても、貴方に出会えて良かった。そう思いながら、午後の光が滲む後ろ姿を見つめていた。





「ごめんなさい猿くん……今日生理来た」
「は?」
「ただの生理不順だったみたい。そういえば今月夜勤が多かったし……あの、だからね、責任とらなくても大丈夫だよ……」
「………今更ナシでしたとかは聞かねぇから」
「え」
「俺にあそこまで言わせた責任とれ」
「責任って……」
「………とりあえずこれ、適当にしまっとけ。帰ったら話すぞ」
「う、うん(マタニティウェディングの資料とた○ごクラブ………あの後買ってきたんだ)」
「仕事行ってくる」
「いってらっしゃい………猿くん」
「ん?」
「ありがとう」
「……チッ」
「えへへ」
「笑うな」
「はぁい」
















from.寡黙




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