先生と、あまり内容のない無駄話をしながら教室に向かう。
横開きの教室のドアを開けながらどうぞと言うと、普段ならしないような私の行動に先生はちょっと不思議がりながら、それでもありがとうと言って扉をくぐった。その時、パンパン!と、ポップコーンが教室に弾けて、「東せんせー!」みたいな騒ぎ声が湧いた。


私には礼服姿の先生の後ろ姿しか見えないけど、目を大きくさせて驚いている様子が簡単に想像できた。東先生に続いて教室に入ると、みんな色んな色で飾られた教室の中、さっき使ったクラッカーを持ってにこにこしながら東先生を見ていて、さっき全く同じ歓迎をうけたであろうあっちゃんも照れながら隅っこにいた。


「びっくりした」


笑いながら、でもほっとしたように言う先生とまだ隅にいるあっちゃんに笑いながら生徒皆の輪の中心に誘導。
ありがちに、クラスの中心頑張っててくれた子が「今までお世話になりました、感謝のしるしに…」みたいなことを言いながら花束とか、色紙を渡していく。


輪の中からあっちゃんの前に出てきた女の子が持っていた手紙を広げて読み上げていく。いっつもHRだるいとか教師らしからぬ文句をたれてたり、授業が適当だったり。でも、なんだかんだ言って私達のこと考えてくれてて。そんな感じのことを読み上げながら、中にはまた泣き出した子もいて。

そんな時にも東先生を見ていた私は、生徒失格なのかもしれない。担任より好きな人のことばっかり考えてる。
東先生はずっと、すごく優しい目で、手紙を読む子を見ていた。





「じゃあ、次は私が、東先生への手紙読みまーす」


私が立ち上がると騒がしくなるクラスメイト達。ノリが良い。そして軽い。

私は先生の前で手紙を広げた。




「東先生へ。」









『1年生の時から、東先生は国語科の先生として私達の授業を受け持ってくださいました。高校生になってばかりで、右も左もわからない私達に東先生は、優しく、そしていつも素敵な笑顔で指導してくださいました。若くて格好よくて優しい先生。私達の間では1年の春で既に、学年1イケメンの浅羽兄弟よりも多くの東先生ファンの子ができました』


どっと笑いがおこる。ひゅーひゅーとか冷やかす奴らもいて、東先生がちょっと苦笑いになった。


『本当に、私達のことをいつも考えてもらってたんだと思います。宿題に分からないところがあって悩んでたとき、たまたま通りがかっただけなのに、質問もしてないのに「分からない所ある?」と聞いてくれたり、文化祭の時、クラスが全然関係ないのに、夜遅くまで小道具つくる手伝いをしてくれたり、しかもその手際が誰より良かったり。
2年に上がってもそれは同じでした。私が毎日、居座るように放課後質問しにいっても、先生は、全然嫌な顔しないでコーヒーを淹れてくれました。体育サボってる奴らにお箸なくて困ってそうだったからって理由だけでわざわざお箸を届けてくれたりしたこともありました』



恥ずかしくて上げれなかった視線を、先生に合わせた。
途端、声が震えた。
身体中に、先生との思い出が走って、熱くなった。




『…で、でも、…私は、あず…先生は……や、優しすぎると…思っ………だって…先生、全然…し、叱らないし……もっと…怒っていい…に………いっつも……苦笑いばっかでぇ………お、怒られるより……なんか……ダメージおおきくて……っ』


遠くで、笑い声とか、「確かにー!」とか「頑張れ!」みたいな声が聞こえる。歪みきった視界では、先生の表情はわからなかった。



『……でも……多分…だから、東先生が、…人気だった…んだと思います……や、優しいだけじゃなくて………怒るだけじゃ、なくて、それ、でも……私達を正してくれる………』



『私達は……、私、は、そんな先生が、大好きでした…!』



先生の前では泣かないって決めたのに、ぼろぼろだった。むしろ、クラスメイト全員に泣き顔を見られてしまった。



『…だから、先生、私達が卒業しても、いつまでも、私達の大好きな東先生でいてください』




皆の知らない気持ちを乗せて、私は誰にも知られずに、この気持ちを断ち切った。







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