卒業式は滞りなく進む。
私の席からは、先生も来賓席も見えないし壇上も遠い。
証書の授与も代表の子だけだし、やることは聞いて立って座って礼して歌うだけ。
そしてただいま答辞である。代表の子が前に立って、笑いを交えたりしながら3年間の思い出を語る。
私も普通に人の子だ。懐かしいなあ、なんて思ってからもうこれからはなくなるんだよなあと思う。インフルエンザで学年閉鎖になったのに朝から遊びまくったこと、行事の度いつも有志で地味に高いクオリティのモノマネをする奴、同時に行事の度ケバくなる女子。
笑って、それからしんみりして。あーもうなくなるんだなって。

大学でもまあ似たようなことはあるのかもしれないけど、毎朝制服来て、放課後嫌々掃除して、たまに授業をサボったりして。そういうのはもう二度とない。
ああ、この時間東先生が見えないのもったいないなあ。


今までみたいに東先生中心で回っていた私の生活も、大学に入って変わってしまうのだろうか。
なんかいやだな。


答辞を読む子の声が涙声に変わると、嗚咽や鼻をすする音が卒業生の中で一気に増えていった。私もじんわりとあたたかくなる。そうか、卒業するってこんな感じか。小学校も中学も卒業式はちゃんとしたのに、改めてそう感じる。



答辞の後の歌では皆泣きすぎて音程が外れてて、ちょっと笑えた。


先生、先生、私は卒業します。先生、私が卒業してどう思う?悲しいって思う?多分先生は今まで沢山自分の生徒と別れてきたんだろうけど、私は、先生にとって何番目の生徒だった?一番可愛いと思ってくれたらいいのになとも思うし、そうじゃないといいなとも思った。

だって、私が先生にとって一番の生徒だってわかったら私、つい先生にすきってすべっちゃいそうだ。ずっと先生といたいって、言っちゃいそうだ。



皆の歌声に隠れて少しだけ、ずびびと鼻をすすった。

















「先輩卒業おめでとうございまーす!」

「せんぱーい!」

退場すると、在校生たちが列をつくって迎えてくれて、沢山の拍手をもらう。
中にはシャボン玉を吹いてくれてる子とかもいて、自然と笑顔になる。


「あはっ、見て、シャボン玉」
「ほんとだー、アハハ、ありがとー!」


沢山の人に囲まれて、卒業するんだな私、って、また実感した。



「なまえちゃん!」
「あ、茉咲!」


在校生の列の中に、一際小さい姿に目がとまる。彼女、茉咲とはあの仲良し5人組を通じて知り合った。最初はつんけんされてたけど、もう仲良くなれたと思う。浅羽兄弟にも「春に次いでなつかれてる」というお言葉をいただいた。


「卒業おめでとう、こ、これ!」
「わ、いいの?ありがとー!」

茉咲の前を通る少しの間にかわいらしい包みを貰った。またあとでね!と後ろに大きく声をかけてから教室へ向かった。





□ □ □ □


教室に戻ってきて、皆で先生を出迎える準備をする。クラッカーと、色紙と、花束と。高校生ってこういうサプライズ大好きだよね。


「なまえちゃーん」
「はーい?」
「私先生呼んでくるからなまえちゃんも東先生探してきてくれる?」
「あ、もうそんな時間?わかった!」


私は副担任である東先生を読んできて、先生宛の手紙を読む担当だ。自分で立候補した。
教室から出て国語科準備室へ向かう。多分ここにいると思う。

「失礼しまーす、あ、東先生いた」


準備室では何人かの先生がいて、おめでとうと改めて祝いの言葉をもらう。なんだかいつもと違ってそわそわする。


「あれ、みょうじさんどうしたの?」
「教室であっちゃんが呼んでる!」
「浅倉先生が?わかった。ちょっと待ってて」


ちなみに先生への手紙も私が中心で書いた。最後の最後まで出来るだけ先生と関わりたいっていう、私の我が儘。
東先生は慌てて今まで開いていた書類をまとめて机の脇に置いて席を立った。


「用事してたの?なんか話時間かかりそうなんだけど…」
「大丈夫だよ、元々今日するやつじゃなかったし。行こうか」


行こうか

その一言が、デートの待ち合わせみたいな雰囲気を出していてドキッとする。


「…あーもう今日日の高校生は妄想が激しいんだから」
「え?」
「あっ、いや!なんでも!」




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