放課後、委員会で居残っていた私は一人で昇降口へと向かっていた。
窓から外を眺めると、鮮やかな夕焼け空はもう闇に包まれかけている。グラウンドにはもう人影がなかった。


のんびり仕事し過ぎたかなぁー、一人廊下を歩きながら少し反省する。


「いやでもあれは鈴木君のミスが原因……あれ?」


一人寂しく、失礼ながら鈴木君への愚痴を溢していると、私のいくつか隣の下足箱が目に留まる。その下駄箱は全開だった。

誰だよこんなプライベート垂れ流しにしてるやつ。しかも位置的には同じクラスの奴だ。

興味本位で誰なんだろうと下駄箱についているナンバーを確認すると出席番号は27とあった。


「27番?……25がミクだったから、花巻…は、ひ、ふ、藤…へ、ほ…ま、み…あ、」




「美作かよォォォ」



何だつまらん。じゃあ誰だったらつまらなくなかったのかと問われても困るのだが、疲れている身で美作ごときに気をかけてしまったのが悔やまれた。

母からの「開けたら閉める」の教えすら忘れたのだろうかあの単細胞は。(みんな絶対1度は怒られるよね)

というかコイツ下駄箱に下足も上履きも両方入れてるんだけど。一体何履いて帰ったの?クラスメイトの奇妙な行動に私は暫しその場で自らの思考に溺れた。けれどそんなことしていたら日も暮れてしまうし、正直美作が裸足で帰ろうが裸で帰ろうが知ったことではないので早々に切り上げて下足に履き替えた。


革のローファーが足を締め付ける。動きにくいし革靴は好きじゃない。






校舎を出ると、冷たい風が頬を撫でる。季節が季節でも日が暮れると冷える。早く帰ろうと、一番近道なグラウンドを横切って帰ることにした。


グラウンドまで差し掛かると、まだ人がいることに気付いた。あれ、何部だ?というか一人じゃない?よくよく目を凝らすと、人影はグラウンド反対あたりに向かって大きな体をゆさゆさ走らせていた。

ってゆーか、


「美作!?」






横に広い胴体、一部だけ金の髪。後ろ姿でも美作だと確信できた。
否しかし帰宅部である美作がこんな時間にグラウンドを走っているとか、あ、やっぱ裸足じゃんこいつとか言うまず第一にたどり着くであろう思考は、今の美作の奇抜すぎる格好のせいで全て吹き飛ばされてしまった。






……奴、美作の上半身は裸にチョッキが羽織られており(下は体操服)、頭には安っぽいウサ耳のカチューシャが取り付けられていた。




「いや犯罪の臭いしかしないんだけどアレ!!まごうことなき変質者だよ!リアルにこえええええ!」




咄嗟に声にだして突っ込んだ私。彼の容貌は、とてもまともとは言えなかった。


けれど友人である美作を放って帰る訳には行かない。あの方向、学校の外に向かっているに違いない。外に出れば、確実に美作は警察のご厄介になるだろう。そんな痛々しい光景、想像しただけで面白………いやいや、心が痛んでしまう。

なけなしの正義感が背中を押して、私は美作を追ってグラウンドを横切った。



「美作ぁぁぁあああっ!止まれえええええええ」


距離的に聞こえてるはずなのに、美作は見向きもしなかった。
全速力で走りながら叫ぶのも、なかなかしんどい。
元々体力も人並みしかない私。けど美作はもっと体力がない。距離も段々縮まってきた。


グラウンドを抜け、いよいよ校門へと近づいてきた。や、やばい…早くしないとっ!!


「美作ぁぁぁあっ何してんのっ戻ってき……ぎゃっ!!」



グラウンドと校門の間のコンクリートの上を走っていた時だった。
突然、底の抜ける感覚。内臓がひっくり返るような浮遊感。



最後に見たのは、振り返った美作の驚いた顔だった。



美作の穴に落っこちて





(ぎゃあああああああっ!)






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