「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
暫くの間、私は頭が働かずただただ身を切りつけるような突風と身体の中で今にも何かが弾けてしまいそうな言い知れない重圧に耐えることしか出来なかった。
どのくらいの時間が経ったのだろう。10分や20に感じたけれど、30秒ほどしか経っていないのかも知れない。少しづつ、この状況にも慣れてきた(と行っても、気持ち悪いのは変わらないけれども)。
ぎゅっと固く閉じていた目を、うすく開いてみる。上の光も下の光も遠いのだろうか、現在進行形で落ちていることを差し引いても消して良い視界ではなかった。
そして私は、慣れてきた頭でやっとこの状況の不可思議さに気付いてきた。
…だって、落ちてる時間長すぎじゃない?
こういう時って時間が長く感じたりするらしいけど、これはさすがに感じてるだけじゃないよね絶対長いよね?
これ地球の裏側行っちゃうんじゃないの?
ブラジルの皆さんとこんにちはしちゃうんじゃないのコレ
ていうかそもそも落下しながらこんなこと考えれることがおかしい。落ちかたも頭からじゃないし。
おかしい。
絶対おかしい。
もしかしたら今私は、超常現象というやつを体感しているのかもしれない。だって学校にこんな深い穴、あるわけないし。
…痴態な格好の友人を追うと巻き込まれる超常現象というのもどうかと思うけど。
つーかんなことよりコレ、落ちたら確実に死ぬよね
「ぎゃぁぁあああああ゙あ゙あ゙おかあさああああああああガッ」
ドシャッ、と音がして、今まで感じたことのない激しい衝撃と痛みが背中から突き刺した。
さっきまで先が見えなかったのに突然地面が現れたようだった。
頭が揺れる。痛いというか、ぐわんぐわん耳鳴りみたいなことが頭で起きている感じだ。生理的に出た涙が頬を伝う。
「〜〜〜〜〜〜…!!」
約数分。
喋るも動くも出来ず、ただ縮こまって痛みに耐えていた私。けれどこの落下で、私は死ななかったどころかかすり傷ひとつ負っていなかった(痛みはものすげえリアルだったのに)。
痛みも引いて来て、やっと周りが見えて来た、ああもう美作は手遅れになったかもしれないとか頭の隅で考えていたがそれよりも今は自分のことだ。
か、帰れるんでしょうか私…
友人よりも自分を優先した駄目人間(私)は、とりあえず周りを確認してみた。
私が転がっているのは、枯れ葉が沢山集まった土の上。もう暗くなったのかそれだけ深く落ちたのか、見上げても地上の明かりは見えなかった。
地面の土は、途中から石造りの道になっていて、松明が2、3メートルおきにゆらゆら燃えている。
道はすぐに曲がっているが、二手に別れているようではなかった。
「……」
ゴクリ。
生ぬるい唾を飲み込む。
どうしよう、進んだ方が良いのかな………いやでもこの道めっちゃ怖いし…なんでこんな薄暗いの?省エネ?二酸化炭素排出を押さえてるの?地球に優しいの?でもコレ私にはだいぶ厳しいよ!?
こんな時に限って、この間みたホラー映画が頭をよぎる。
あああああソウなんて観るんじゃなかったああああっ
「っあ!いた…!」
「!?」
ビックゥッ、と、凄い勢いで肩が揺れた。薄暗い石畳の道から、だいぶ不釣り合いな、でもどことなく聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえたのだ。
振り返ったさきにいたのはやはり、見知った顔だった。
「み!!………く……?」
やって来たのは、確かに、私の友人の花巻ミク…なんだけど、
「みっミク!?何その格好!!」
ミクはいつもは絶対着ないようなピンクと黒のストライプの襟のついているTシャツに、黒のもわっと膨らんでるショートパンツを履いて、頭にはさっきの美作みたいに安っぽいつけ耳がついていた(ただミクのは猫耳だ)。
「え、ミク…?」
「ミクってそんか服趣味だっけ?いや可愛いよ?今にも私の鼻腔からは鼻血が吹き出しそうなくらい可愛いんだけどね一回抱きしめていい?ていうかなんでこんな所にいんの?」
知り合いと会った安堵感で私が喋りまくっていると、「あ、あの…」と鈴の鳴るような声。
「わ、私は『ミク』ではないですよ…?」
「え…」
「私はチェシャ猫その@ですよ………お、お忘れですかアリス?」
あ、アリス!?
チェシャ猫……つーかその@って何ィィィ!!?