「おっは楊貴妃〜!」
「今昼休みだからなお前」
みょうじが登校してきた。
今更なのでみょうじの遅刻については言うことはないが毎度毎度突っ込めばいいのか引けばいいのかよくわからないギャグを飛ばすのはやめてほしい。
「あれまー麓介さん突っ込みにいつもの覇気がないですよー疲れてんの?………あれ、なにこれ今日ってバレンタインだった?」
それは俺の鞄や机の中に詰め込まれているピラピラテラテラした包みを認めての台詞。
こう相手の返答も聞かずに思ったこと一気に言っちまうあたりがこいつの子供っぽいところの一因であると思う。
「いや、これは――」
「えっ、じゃあこれ何でもないのに皆から貰ったの?藤の人気も私が11時間寝てる間にそんなとこまで急上昇したの?
なにそれずっこい!!私だって何にもないのにプレゼント欲しい!!くそー藤め不慮の事故でそのプレゼント ラブレターと共に全部燃えろぉぉぉ!」
「どんな不慮の事故だよそれ!!お前俺を誰だと思ってんだよ芸能人でもあるまいし!つか寝すぎだわ!」
「いや藤の顔面のみの魅力なら芸能人のそれとも劣らないよ悔しいけど!」
「芸能人のそれってなんだよ訳わかんね!」
「いやいやなまえちゃん違ぇよ、今日藤の誕生日だから」
俺とみょうじの無意味な口喧嘩を美作がいさめた。
ちなみに今日4月11日は俺の誕生日である。
机の包みはまあそれが原因なんだけど、毎年わかってることだけどさすがにこの量はしんどい…。
そして美作の台詞を聞いたみょうじは「え」と発した後俺と美作を見比べて固まった。
「………」
さっきまでの(怒ってるせいで)真っ赤な顔とは打ってかわり、みょうじの顔は真っ青に激変、脂汗が滲み出ていた。
…あれこいつもしかして、
「みょうじお前もしかして俺の誕生日わ……」
「いやいやいやいやいやわわわ忘れてなんか無いよぉ〜麓介くん何言ってくれちゃってんの?さすがのなまえさんでも?ご親友の?誕生日くくくくらい?忘れてなんか………」
「…………」
みょうじは目を泳がせながら無言でわさわさ自分のポケットをまさぐった。
「…………」
「…………」
「………輪ゴムいる?」
「いや遠慮する」
「(いや本当なんなんだコイツ…!)」
ポケットから出したの輪ゴムって!
そんなもんしかなかったらむしろ渡さなくていいだろ!
「なまえちゃんもう素直に謝った方が」
「何言ってんだ美作ぁぁぁっ!!私はだだだから忘れた訳じゃ…」
「ケンタ」
なんかもう収集つかなくなりそうだったので、ため息を吐いた俺は一言、みょうじに告げてやった。
「…は?」
「だから、ケンタ奢ってくれたらもう忘れてたのとかチャラにしてやっていいから」
確かに友人に自分の誕生日忘れられてたのはちょっとショックだったが、別にそんな焦んなくてもそういうの気にしない質だし、慌てるみょうじが結構笑えたし、丁度がっつり肉食いたかったしこれで一件落着だろ、と思った。
だがしかし、
「えーやだよケンタ高いもん」
こいつは俺の親切心とかその他諸々を一蹴しやがった。
「……お前なぁ……」
「あっ、そうだ、ちょっと待ってて」
怒りに震える俺を完全に無視して、肩に提げた鞄から筆箱とルーズリーフを取り出して俺の前の席でいそいそ何かを書き始めたみょうじ。
その後びりびりびり、と手で紙を破る音が聞こえて、みょうじは満面の笑みを張り付けて振りかえって来た。
「はい、誕生日プレゼンツ!」
渡された1枚の紙には、女のものとは思えない小汚い字で、
『かたたたき券』
「俺はジジイかァァァ!!!」
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