「美作ぁぁああっ!!」


「あ?みょうじちゃんかよ、どうした?」




「飯奢って!!」




ステルンベルギア





「はあ?なんで」


「お弁当忘れたのー!」


「…金は?」


「もちろん持って来てない」


「またか…」


…俺のクラスメイトであるみょうじなまえ(以下みょうじちゃん)は、少し…いや、かなり変わっている。


何もこのクラスになってから変になった訳ではなく、みょうじちゃんの噂を遡ると、小学校時までになる。


見た目はかなり可愛いんだけどなぁ………ちょっと頭が弱いというか、軽いというか。
加えて物の考え方とか、行動力が大胆すぎるところも噂の一因となっている。



そしてみょうじちゃんは週に2、3度は、昼飯と金を忘れ、その度に周りに少しずつおかずを貰ったり奢られていた。(恐らくっつーか絶対故意だ)
みんな金を貸すだけにしないのは、『貸す』という名目でも、彼女は頑として返さないことを分かっているからだ。


しかし彼女曰く「金にがめついんじゃなくて他人の金で食う飯がことさら美味いから」だそう。それって結局がめついんじゃね?


しかしここで本気の揉め事にならないのは、憎めないみょうじちゃんのキャラだと思う。
それに一応お返し的なことはしてるみたいだ。


「みょうじちゃんのお願いでも今日は無理だ。金ねぇし」


「えーなんだよー美作のケチー豚ー陰毛ー」


「ちょ、女子のその発言はアウトだから!!!!」


「ギリ?」


「ギリじゃねぇええモロぉぉおおお」


「でもキャラ立ちはしっかりさせとかないと今後やりづらいんだよ」


「いやヒロインに下ネタキャラ着く方が問題だっつーの!」


しかしみょうじちゃんはまだ納得いっていない様子。つーかどんだけキャラ立ちの心配してんだよ!


「とにかく俺は協力できねぇ!他当たれ!」


いくら可愛い子っつったって、この性格相手では愛想良くできない。
ああこれでジェントルマンから一歩後退したな俺。



「じゃあおかず!おかずちょうだいよなんでもいいから!そいでからアシタバに当たる!」


向かいでびくびくしながら飯を食っていたアシタバが、「えっ」と濁った声をだした。恐れていたことがついに来たという様子だった。


「ね!いいでしょアシタバぁぁお願いぃっ!」


「…う…うん……分かったよ」


ノーと言えない日本人No.1のアシタバ。ちなみに確信犯だ。多分アシタバがみょうじちゃんの被害に合った回数は確実にみょうじちゃんの友達の女子のそれをも上回っている。


「ハァ、しゃーねーなぁ。俺のおかずやるから。アシタバには控えめにしてやってくれよ。その代わり食うなら俺の箸で…」

「やっほぉぉぅいいただきっ!!!!」


と叫んでみょうじちゃんは俺の弁当から卵焼きとウインナーを容赦なく口に運んだ。しかも素手で。


「あっ……間接キッスのチャンスが!」


すると藤が飯を掻き込みながらじと目でこっちを見やがった。なんだよその目は!


「がーっはっはっは!!元気100倍バイバイキーン!」


「いや混ざってる混ざってる!」


その後みょうじちゃんは、アシタバにおにぎりとミートボールと春巻きをたかり(弁当の内容量の半分)、他の女子にもいくらか貰っていた。



「アシタバにはちゃんと恩返せよ」


「もちろん!アシタバにはいつもお世話になってるから特別なのだよ!」


「えっもしかしてそれってキスとか…」


「んなわけねーだろ」


「心臓が痛い!」









しかしこんな些細な食糧強奪、彼女の行動パターンではまだまだ可愛いのである。



「これ僕家帰るまで持つかな…」

















因みに俺へのお返しは「下校の時下足を下駄箱から出してあげる」でした。