「あっ!ゴホンッ………おはよう、なまえちゃん」

「あーおはよー、み゙っ………ま…さか…」


朝登校すると、わざとらしく変えたような美作の声が背中にぶつかった。
その声に、いつも通り振り返った…………んだけど…。


「な、何その格好……」


美作は何時もの詰襟姿ではなく、茶色というか、黄土色というか…泥色?みたいな色をしたスーツを着込んで目を細めていた。

何だ何だ。何でこいつこんなに浮かれてるんだ。美作を引きながら一瞥していると、そういえば他の男子もどことなくワキワキしているのに気が付いた。


「あーそっか、今日バレンタイン…」


「えっ忘れてたのかよなまえちゃん!女なのに!」


「女なのにってどういう意味よ」


もうそんな季節なのか。私は何故だかこういうイベントごとには興味が湧かない(こんなのに一番興味津々な歳なのにね)。
友達に貰うチョコは、貰った人にだけブラックサンダーで返す。近頃の中学生のお菓子作りの腕って、本当凄い。これがバレンタインにおいての唯一の楽しみだ。


「まぁそれは良いとして、なまえちゃん何か俺に渡したいもん…」


「あるわけないでしょ」


「……」


明らかに項垂れる美作。
日頃から数多の女子達に見向きもされず、それでもへこたれない美作は、可哀想というよりむしろ尊敬に値する。


「チョコが欲しいなら藤にでも頼んだら?」


「んなプライドも糞もねぇような真似出来っかよ!男が腐るぜ!」


腐ろうが太かろうが美作も男らしい。


「ふふっ、じゃあ今年こそ貰えないと、男が廃るね」




「……ちゃんの、」


俯きながら小さく発せられた声に、もう教室に行こうと背けた顔を戻して「?何?」と、聞き耳をたてた。すると


「お、俺が欲しいのは、なまえちゃんのチョコだ…!」



いつもは誰が、とか考えず『女』が好きな美作にこんなことを言われるとは思っていなくて、思わず私は目をまん丸に見開いた。








「あー、えと、だからそのー…」


私が黙っていることに居心地の悪さを感じたのか、美作は歯切れ悪く唸った。
あの大きい図体がもぞもぞしてるのが、面白かったんだと思う。私は理由を考える前に吹き出してしまった。


「ぶっ…ふぁははははっ!!」


「なっ…なんでそこでツボる!?」


ヒーヒー笑い(癖)を抑えながら美作の顔を伺うと、顔を真っ赤にして怒っていた。こ、これは本当に失礼かも知れないけど、マジ豚みた……っふふ…!


「み、美作も趣味悪いね…チョイスが私て…」


「なっ、なまえちゃんは自分を過小評価しすぎだって」


自分を過小評価した記憶はないんだけど。むしろ逆なんだけど。


「返事がどうかは置いといて、ありがとう。でも、私を振り向かせたいなら、もっと心身共に、男前になってね〜」


言って私は美作にデコピンを食らわせると「あだっ」と、のけ反った。


「んじゃぁねー」



まあ、ブラックサンダーくらいならあげようかな。









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好きな子に振り回される
美っちゃんが書きたかった
のだが…微妙ですね。
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