「…あ!刀哉くーん!」

「…みょうじ先輩。どうしたんですか?」

後ろから声がして、振り返るとみょうじ先輩がいた。

「うん、ハデス先生がね、刀哉くんのクラスの保健委員の子にこれ渡してって。私保健委員の子知らないから、渡しといてくれない?」

差し出されたのは先日の委員会の内容が書かれたプリント。

「なんか、トイレの照明の点検?を交代で毎週することになったらしいよ。前の委員会で休んでたらしくて、連絡しておいてって」


「分かりました。じゃ、渡しておきますね」

ちなみに保健委員の委員会に、ハデス先生は参加しないらしい。ハデス先生が参加すると、みんな来なくなるのだ。


ありがとうございました、と軽く礼をして立ち去ろうとすると、「あとさぁ」と呼び止められた。



「その先輩って、やめてっていっつも言ってるじゃん!いい加減聞いてよー」


ぷくーと頬を膨らまして剥れる彼女は可愛らしいというか子供っぽいというか。


「先輩に先輩って言って何が駄目なんですか?」


「だってなんか一線置かれてる感じがするんだもん。先輩とか思ってくれなくていいよ、名前で読んでくれても全然良いし。むしろ嬉しい!」


へにゃりと笑うその姿は小動物のよう。
いつも思うんだけど、そういう言動はやめてほしい。僕は耐性がないから。


「…はぁー」


「あ、何そのため息!そんな人にはチョコレートあげないってばよ!」


「何でいきなりナルト口調なんですか。ていうか、チョコ?」


「そうだよ刀哉君!年中クールビズの君は知らないかもしれないけど世間では今日2月14日をバレンタインデーと呼ぶのだよ!」


「いや…さすがに僕でもわかりますよそれくらい」


「あら、そうなの?まあとりあえず、ジャーン!なまえちゃんお手製チョコであるー!味の保証は無いけどね味見してないから」


「してないんですか!?例え義理でも味見くらいは…」


「義理だと思う?」


彼女の瞳が大きく揺れた。
真っ直ぐに見つめられて、たじろぐ自分に気付く。


「あっ、な……」


「可愛い」


微笑みながら頬を染める彼女の姿に、体温が上昇した気がした。



「あの、先輩?」


「ん?」


「先輩は、皆に人気あるし、こういうの慣れてるかもしれないですけど、あんまりこんなことされると、ホラ、俺、勘違いしちゃいますよ?」


「…しちゃってくれたら、私は万々歳なんだけど」
- ナノ -