朝起きて、洗面所で頼子の愚痴を上手く避けながら歯磨きして制服に着替えて、朝食をとって。
いつもと同じように1日が始まる
…ハズ。
「ねぇ、ママー!冷蔵庫のチョコ取ってー!」
「!!!」
いち早く朝ご飯を済ました頼子が、台所にいる母さんに叫んだ。妹の発言に僕の心臓が跳ねる。
「…何、お兄ちゃん」
「え?なな、何が?」
じとっと効果音が成りそうな視線をこちらに向けた妹。確かにさっきは必要以上に反応してしまったから仕方ないかも知れないけど、正直なところそこは空気を読んで気付かないフリくらいしてよ、とも思う。
暫く無言で睨み続けていた妹が、今度はフーンと、鼻で笑ってきた。
「お兄ちゃんもバレンタイン、きんちょうたりするんだー」
「な、そんなんじゃないよ…」
こういう時はいつも、つくづくませた妹を持ったことに悲しくなる。上手く言い返せてない僕も僕だけど。
すると、丁度良いタイミングで母さんがダイニングまでやってきた。手にはラッピングされたチョコが数個。お陰で頼子の質問攻めを回避できる。
「冷蔵庫の匂い、着いてないかしら?」
心配そうに伺う母さんに、「大丈夫だよ」と返す妹。
(誰にあげるんだろう…)
我が妹のことながら、少し気になった。僕の視線に気付いたのか、頼子がこちらを振り返って「お兄ちゃんのはないからね」と言い放った。
「別にそういう意味で見てたんじゃないんだけど…」
「じゃあ、何?」
「そんな沢山、誰にあげるのかなって思っただけだよ」
「友チョコだよ、全部」
え、トモチョコ?
…あ、友チョコ?
一瞬トモチョコの意味を掴めなかった僕。
「え、あ、そうなの?」
「あたり前じゃん」
なんだ、良かった…。
って、いや、何でホッとしたんだ自分?
…僕ってこんな過保護な兄だったかな。
「それよりお兄ちゃんこそ貰うよてー、あるの?」
「え」
ヤバい!今日一番聞きたくなかった言葉!朝から聞かれてしまった!しかも身内に!
後ろの母が「やだ、そうなの郁?」と嬉しそうな声を出した。
「あ、でもお兄ちゃんはそーしょく系だからもらえないね」
どうやら妹の脳内では草食系男子=チョコは貰えないらしい。
「そ、そんなこと…」
いや、まあ、ご想像の通り無いんだけどね貰う予定。
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