硝子製のテーブルに湯飲みを置くと、静かな部屋に、ことりと音が響いた。
真っ白い無機質な部屋には、久しぶりに私以外の生徒がいない。
最近は、ハデス先生を怖がらない生徒が、着実に増えてきて、ずっと2、3人は誰かが保健室にいたから。
先生はとても嬉しそうだけど、私は淋しいと思った。
当の先生は今、デスクワークでパソコン画面とにらめっこ中。
放課後に遊びに来たんだけど、これはいいかげんつまらない。
「せんせ」
今お喋りは邪魔かな、という思いを隅によせて、話し掛けてみる。
ああでも先生は、優しいから、嫌な顔は少しもださない。
「ん?」
「せんせ、今日、バレンタインに誰かからチョコとか貰った?」
私のしゃべり方って、今思ったら随分淡白だ。
それに今日は尚更だ。
よく人から「ミステリアス」って言われるのは、このせいかもしれない。
「ああ、ええと。ひとつだけ、チョコレートじゃなくて、変わったプレゼントを貰ったよ」
「先生もプレゼントもらえたんだ」
「差出人は誰なのかわからないけどね」
差出人なら、私は知っている。
だって、ハデス先生にチョコレートあげるような物好きなコ、私以外に1人しかいないでしょう?
「ねえせんせ、先生はいつか、結婚する?」
「さあねえ…まず、僕と結婚してくれる人がいるのかわからないからね」
見た目もこんな風だし、と。
そう言う先生に私はくすりと笑い返して、そうだねと言った。
「じゃあ、せんせ」
私は、立ち上がって、ゆっくり、先生の座るデスクの前に歩を向ける。
「これあげる」
先生が手を置いているマウスの側に、小さな紙袋を置いた。
「いいのかい?ありがとう…とても嬉しいよ…!」
「もし私が大人になるまで、先生に、『先生と結婚してくれる人』ができなかったら、私がその第一候補になるね」
そう言ったら、先生は目を大きくひらいてパソコン越しに私を見詰めた。
「私は物好きなんだよ」
ハッピーバレンタイン、せんせ
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独特の雰囲気を醸し出したかったがただただつかみづらいだけの文になってしまった…