ぴゅおお。

痛々しい風が体を打った。



私は、とある住宅の前に立っていた。

もう手も足も感覚がなくなってきていたけれど、自分の家に帰る訳にはいかなかった。


手袋と、カーディガンでももう1枚着てくればよかったなぁと、もう何度目かわからない後悔の念が脳内を掠めた。



さっきから2時間。
全く動いていないのに、身体を打つ心臓の音は早かった。ああ、安田君、まだかな。





今日は、バレンタインデーだ。
大概の女の子は、この日が近付くとそわそわし出す。
今年は何作ろうとか、友チョコどれくらい作ろうかとか、好きな男の子には、何あげよう、とか。


私も間違いなく、このバレンタインというイベントごとに踊らされている女の子のうちの1人だ。
友達には、今年はアップルパイを焼いた。切り分けて渡すから、一度に大人数分が作れるからだ。


…で、私の好きな男の子、安田貢広くんへは、小さめのフォンダンショコラとクッキーを用意して、学校で渡そうと…思ったんだけど…。



安田君のクラスに行くと、彼はいつも他の男の子達とおしゃべりしていて、結局渡せず仕舞いで、放課後にも見失ってしまったのだ。


だから、仕方ないので安田君の家の前で待っている。まだ帰ってきてはいないみたいだし、チャイムを鳴らしてご家族の人に預けるのも気が引けた。



(お友達と遊んでるのかな…それとも…)



嫌な考えばかりが頭にぐるぐる回る。そして泣きたくなった。安田君は付き合ってる子、いないらしいけどもしも、私より先に誰かが安田君にチョコをあげて、す、好き同士になって、2人で今頃…で、デートしてたら…


ああ私って嫌な女。意地汚いなあ…。
なんだか冷たい風に乗って、私の勇気も少しずつさらわれて行ってしまったみたいだ。安田君…。安田君の顔、見たかったけど、私の気持ち、伝えたかったけど、もう帰ろうかな…。

 
「あれ、誰?」


「ひゃっ!!」


突然後ろから、それもだいぶ近距離でかかった声に、ギクッと肩を揺らしてのけ反るように振り返った。や、安田君だ…!


「や、やすだく…」


「みょうじじゃん、どうしたの?」


「や、安田君、私のこと、分かる!?」


問うと、彼は当たり前じゃん、と爽やかに笑った。
わ、わわわ、覚えててくれた…!あんまりしゃべったことないのに!



「この間はマジありがとうなー、助かった」


「い、いや、私は何も…」


この間、とは、多分今から1ヶ月くらい前に、保健室で、丁度いなかった先生の代わりに安田君の傷の手当てをした時だ。あの時が安田君とは初対面である。



「で、どうした?つか俺んち知ってたっけ…」


「あっ、アシタバ君に教えて貰って…ごめんなさい、勝手に…」


「いや、それは良いんだけど…」

「それで、あのっ…」

手に持っていた、ワインレッドの紙袋を差し出した。
大丈夫。大丈夫。


差し出すと同時に、あつくて燃えだしそうな顔を見られないよううつ向いた。視界には私の短い足と道路だけ。


「初めて会ったときから、すっ、好きでした!あっ、付き合ってほしいとかじゃ、なくて、でも、つ、付き合えたら嬉しいんだけど、と、にかく、これ食べてください…!」


い、言った…!私、言ったぞ!逃げずにちゃんと、言ったぞ!
頭が熱いみたいな、痛いみたいな、よくわかんないことになって足が震えそうだった。安田君から返事がなくて、ちょこっと顔をあげると、大きい目をもっとまんまるおっきくさせている安田君と目が合った。


「あ、あの…」


「お、俺でいいの…!?」


「はっ、はいっ」


「女子達から変質者だ稀代のエロリストだと名高い、お、俺ですよ…?」


自分で言うのもあれだけど…と、小さく濁す安田君に私はもう一度、力強くはいと答えた。


「最初に、安田君と保健室で会ったときね……私気が小さくて、初対面の人と、あんまりちゃんと、おしゃべりできないんだけど」




見ない顔じゃん。2年?何組?


名前は?みょうじ?…おしっ、覚えた!


ああ、さっき体育で怪我したんだけど先生いなくてさ……え、かわりに?いいの?サンキュ!助かる!


「私、あの時、本当に嬉しくて…他の男の子は、私のことめんどくさがることが多くて………それから、何回か安田君とおしゃべりするように、なってね、すごく、胸がシューってなってね、すぐ顔が熱くなっちゃって……あっ」


緊張しすぎて、しゃべりすぎちゃった…!?
安田君はまた止まっちゃったし、恥ずかしいし、どどどどうしよ…!


「ごっ、ごめ、なさい!しゃべりすぎちゃっ…」


すると、差し出していた紙袋を安田君がばっと取って私の両肩をがしっと掴んだ。真剣な安田君の顔が格好よくて、なんだかボーッとしちゃいそうだけど、顔がちかっ、近くてすごく恥ずかしいよ!


「本当のこと言うと、実は俺も、みょうじのこと、気になってたんだ」


「ほ、ほんと?」


「うん。よく人にぶつかるとことか、その人に顔真っ赤にしながらペコペコ謝るとことか、スゲー可愛いと思う」


「やすだく…それ誉めてないよ…」


「誉めてるよ、ほんとに俺でいいの?」


「うん」


「でも俺、多分これからもずっと熱子のこと好きだよ?でももちろんみょうじのが1番好きだけど」


「う、ん」


1番好き…す、すきって、言ってくれたよね?あわぁぁぁあはず、恥ずかしいけど嬉しい!


「もしかしたら俺いつか我慢出来なくなってみょうじのこと襲っちゃうかもしれないけど」


「そっ、それはちょっと、恥ずかしいよ…でも、もっと私が大人になったら…や、安田君になら私…こわくないと思う」


「ぅえっ、ま、マジ!?」


「いっ今はだめだよ!もっと…」


「おれ、ずっとみょうじのこと好きだから!大人になるまで!いや大人になってからもずっと!」




「やすだく…きゃっ!!!」


安田君は私をぎゅってして「バレンタイン最高ぉぉぉ」と叫んだ。

「やっ…だ、だめだよっ、恥ずかしいよやすだく、」



「みょうじっ、声えろい!」


「えええ!」



*************
何だコレ(^o^)やすだ好きなのに駄文すぎて魅力が伝わって来ない
- ナノ -