一通り話すと、彼女はケラケラと声を出して笑った。
「そこまで笑わなくても…」
「あ、あははっ、だって、妹に言い負けるって……ふふっ、アシタバらしぃー」
勿論情けないです。そして恥ずかしい。
「まあでも、今年はちゃんと言い返せるかもよ、妹ちゃんに」
「え?」
すると彼女は嬉しそうに笑って(それだけで緊張する!)、自分の鞄をごそごそし出した。
「はいコレ。藤のやつかっさらった訳じゃないから安心して」
みょうじさんが取り出したのは、黒い包装紙に、グレーのリボンがあしらわれたシンプルなプレゼント。手のひらの大きさだ。ていうか、え、
「…え……ええっ!?僕に!?いいの!?」
「本命だけど。貰ってくれる?」
「!」
一気に体温が上がった気がした。
僕の好きな女の子は、言わずもがなみょうじさん。好きな子にチョコを、しかもほ、本命チョコを貰うなんて重大イベント、こんな唐突にあっても良いのだろうか…!
しかも、みょうじさんの頬がピンクになってる。…か、可愛い…!
「でも、なんで僕…?」
「私は遠くのバラより近くのタンポポ派なの」
いつかの美作くんの台詞。
僕がまだ分からないという顔をしてる僕に、彼女は続けた。
「…イケメンだとか、そういうんじゃなくてさ、クラスの皆にも、先生にも気配り出来て……まあ目立たないし心配性だし変なとこ頑固だけど…」
「あ…ご、ごめん…」
もしかしたら怒っても良い場面かもしれないけど、謝ってしまった。
それをみたみょうじが、ちょこっと笑った。
「そーゆーアシタバの優しいところ、私好きだよ」
脳味噌が熱くて溶けそうになった。
机ごしのみょうじさんから、目が放せられない。
「…だから、貰ってくれる?」
つやっとした彼女の黒い瞳が揺れた気がした。
「…も……モチロン…ありがとう…!!!!」
大事なところで声が強ばった。こんなとこでまで自分が情けなくなる。こんな、奇跡みたいな場面で。
それに楽しそうな笑みを溢したみょうじさんは、机に手をついた。
ふわり、
甘い匂いがしたと思ったら、ギシッと、机の軋む音が遠くに聞こえて、視界が薄い肌色で埋め尽くされた。ぼやっと、近くでみょうじさんの瞑った目が見える。
ちゅ、と可愛いような恥ずかしいような音が漏れて、唇が濡れた。
それから遠ざかった彼女は、
「今度、ちゃんとお返ししてよね、郁」