「ねえ、莉沙がさ、最近他の学年から何て呼ばれてるか知ってる?」


昼休み。
いつものように女子4人で弁当やパンを広げていると、リカが唐突にそんな話を持ち出した。

「は?私他の学年に知り合いとかいないんだけど」

噂が立つほどのこともしてないし。

「多分それ、私も知ってる」
「えっ、亜子まで?」

ショートヘアの美人、亜子がそのつり上がった目で私を捉えながらそう言った。志絵は聞いたことがないらしく、興味深そうに話の催促をした。

「ほら、莉沙ってよくあのオバケ先生のとこ行くじゃん」
「ああ、ハデス先生の所?よく行くっていうか、ハデス先生が来る前から保健室にはよくいるけど」
「そうじゃなくてさぁ、あのオバケ先生になってからもう誰も寄り付かないじゃん、あそこ」
「そうそう、リカ達も言ってたんだよー、よく行く勇気あるよねーって」
「…別にあの人、怖い先生じゃないんだけどなぁ」

アシタバたちも割と頻繁に保健室に通ってるんだけど、気づいてないのだろうか。そう呑気に構えながら亜子の話を聞く。何時間もいるのは寝込んでる私かサボってる藤くらいなもんだろうけど…。
ちなみに私は最近出席日数を危惧してサボるのは控えている。後からラクしたいしね。

「そのせいでさ、結構目立ってるっぽいよ。アンタ」
「え〜?」
「『保健室のあの人』とか『悪魔の助手』、『第1の犠牲者』とかって呼ばれてるらしいよ?」













保健室の死神 第4診











「あ、…フッ……あ、悪魔の助手!!!ヒーッ!!!……アッハハハハハ!!!」
「…はぁ?何それ」
「だから、変な薬盛られて懐柔させられたー!とか、何時間も保健室から出てこないのはオバケ先生の人体実験に付き合ってるからだー!とか」
「アーッヒャッヒャッ!!…フッ!ヒーッ!!!」
「ちょっと志絵黙れ!!!なにその根も葉もない噂…っていうか藤達だって保健室入り浸ってるじゃん」

そんな訳の分からない噂が立っていたのか。知りもしなかった。反論するように私が言うと、3人は目を合わせてうーんと考えるように唸った。

「そういえば、藤くんの保健室関係の噂はあんまり聞かないね〜?」
「私、『藤くん、保健室に入れるなんて勇気あるぅ〜!カッコイ〜!キャピ!』っていう話なら聞いたことあるよ」
「亜子…最後のキャピって何…」
「あ〜笑った…まあ藤はそういう面白おかしいネタにしにくいからね〜、女子が怖いし」
「イケメンってそんな所でも優遇されるの?!腹立つ〜!っていうかそれ、私は面白おかしく噂しやすいってこと?!」
「?俺が何だって?」
「あ、藤くん」

噂をすれば、どこからともなく藤が湧いてきた。

「お前の話してないどっか行ってマジで殴るぞ」
「はぁ?!なんだよそれ」
「も〜本当にアンタの話じゃないって!ハデス先生の話してたの!だからシッシッ!」
「ハァ…なんなんだよ…そういやアイツ、今日羊羹持ってきてるからお前も食べに来いって言ってたぞ」
「放課後行きます」
「おう、じゃあな」

どうやら藤は保健室帰りらしく、先生からの言伝を伝えた後、ようやく自分の席に向かっていった。

「アイツこそ『保健室の主』とか付いてもいいのに」
「っていうかあの先生から出された物食べるの…?!」
「先生の出してくれるお茶請けいつもおいしいしお茶淹れるのも上手だよ」
「っていうかいつの間に藤くんと仲良くなったの?!うらやましぃ〜!」
「仲良くないし藤あれぐらいアンタらとも喋るでしょ?」

ないない、と言われてしまった。藤、気さくだし普通に喋れば普通にあれぐらい喋ると思うんだけど。


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