昼休み。
教室はがやがやと騒がしくなり、各々が席を立ってグループに別れたり、外に出ていったりして昼食を広げる。


「莉沙ー!ご飯食べよ!」

「んー」


かかってきた声に、カバンから弁当を取りだしつつ返事をする。
いつも、昼は大体、この子達と食べる。保健室では昼休みが被ったりしない限り食べることは少ない。でもアシタバ達は、あのシンヤの一件以来頻繁に保健室で昼食をとっているようだ。女子って結構ひとかたまりになって行動することが多いけど、私はむしろそうじゃない方が多い。まあ大体の人は決まってるけど、それは私がそういうぷらぷらとした性格だってことを解ってくれている子で、付き合いやすいのだ。
現に今一緒に弁当を食べてるこの3人も、私がいなくても、他と弁当食べてても怒ったりしない。楽でいい。



「ああー!莉沙の卵焼き!」
「ちょ、いきなり取んないでよ!っていうか卵焼きならあんたもあるじゃん」
「莉沙のが美味しいんだって!」
「えーじゃああたしもー!」
「マジでー!?私ももーらいー!」
「おっ、お前らあああ!!」


私の卵焼き全部奪われた。
タイムサービスのがしたからこの卵高かったんだぞばかあああ!
ムカついたので3人の弁当の一番豪華そうなおかずを1つづつ奪ってやった。「それ一番楽しみにしてたのに!」とか、そんな声は無視無視。


「あんたらが勝手に人のもの奪うから悪い」
「ぶー!」
「可愛くない」


ああん莉沙が冷たいー!
よしよしあいつは元からあんな感じよ
間違ったことは言ってないしね
ちょっとー!


きゃぴきゃぴきゃぴ。
どうしてこうも今日日の中学生はうるさいんだろう、いや、いつの時代も一緒か。
まあ悪いやつじゃないからいいけどね。



「リカ、あんま食べながら興奮すると食べたもの飛び散るよ」

「やだ莉沙きたない!」

「あんたがだよ」


今私にむかって体をくねらせているのがリカだ。私が言うのも失礼かもしれないがそこそこ可愛いけど、ただこの身振り手振り言動がこいつの品を下げている。かつ本人はこれが可愛いと思ってるから問題だ。
その割に、いつも言うことは正しいし、怒った時は中々男前なことを言う。私は彼女がキレるところが結構好きだ。キレる理由もいつも正しいし、気持ちいい。
どうでも良いが他校に彼氏がいるらしい。


「それにしても本当莉沙料理上手いよね」
「もっとお弁当も気合い入れてくれば良いのに。冷凍食品ばっかじゃなくてさぁー」
「ねえー」
「リカは話入んなくていいよ」
「志絵ちゃんひどい!」


この2人は志絵と亜子。私と3人でリカをいじり倒すのが毎日の常だ。
志絵と亜子は見た目こそ正反対だけど性格は双子みたいに似ている。今も一緒になって私を見つめている。


「ねえ一回お菓子とか作ってきてよ」
「いやだよめんどい。それに上手くないし」
「こんな美味しい卵焼き作っといてよく言うわ。いいじゃん莉沙、一回だけ」
「嫌なもんは嫌」

「でもさあ、実際莉沙ってバレンタインとか一回も作ってきたことないよね」


ぴたり。
リカの一言で二人が固まった。意表を突かれた、みたいな顔だ。って、え?



「そうだよ…莉沙今度のバレンタイン何か作ってきなよ!!」
「ええ!?っていうか、そんな先のこと…」
「あたしもっ!莉沙のチョコ食べたぁい!」
「なっ」
「いいじゃん。ちょっと作って来るくらい。手抜きは駄目だけどね」
「莉沙ならありえそうだねえ、うーん、じゃあ手ぇ抜いてきたら私らに昼おごってね」
「はあ!?」
「ちゃんと作ってきたらいいだけだって!ちゃんとお返しも用意するし」
「あたしもみんなに友チョコつくるー!」
「「別にいらない」」
「志絵ちゃんも亜子ちゃんもヒドイ!」


一生のお願い!とか絶対ね!とか、作って来なかったら解ってるわね!とか、これむしろ責められてる感覚に近い。

「ちょ、もっ……わ、わかった!わかったから、うるさいいい!!」


ああ、私、こんな押しに良かったっけ。

やったやったと、女の子らしく喜ぶ3人に、私は頭が痛くなった。


「…私自販機行ってくる」
「そう?いってらー」
「ばいばーい」
「5限からもサボんなよー」
「サボんないよ!」


それでもこいつらと友達やってるのは、3人共こうやって案外あっさりしてるからかも。




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