「で…何でオマエまでついてくるんだよ」

そう言う藤くんの視線の先には美作くんが。
怒っている。凄く。廊下をドスドス歩いてくる。

「うるせー!!テメームカつくんだよ!!」

そう言って怒る美作くんの顔を見て、あの不機嫌な藍田さんを思い出した。
いや、美作くんと藍田さんが似てるとかじゃなくて。

「あ、藤くんちょっと待って…」

「ん?どうかしたのか?」

「うん、ちょっと…」

と言って教室を覗くようにする僕を見て、

「誰か来るのか?」

と一言。

「あ、うん」

そうなんだけど。
という僕の声は、教室内から溢れた笑い声にかきけされた。
笑い声を聞いた藤くんは
「ああ…藍田か」
と呟く。

藍田さんはいつもサボりたくて教室を抜ける時、コントみたいなセリフでもって先生を説得する。
この間は「右脇腹にミサイル投下されたんで保健室行ってきていいですか」だった(つまりお腹が痛いんだと思う)。
しかも至って真顔で言うので、それが皆を笑わせるみたいだ。

でもサボりだけじゃなくて、本当に体調悪い時も藍田さんはこの調子で先生に言うので、最初すっかり嘘だと思っていた先生が、授業中に倒れた彼女におろおろしていたことがある。それからは先生にもどちらかわからないので、仕方なく先生達は藍田さんの申し出を許すのだった。

藤くんも授業サボったりする事が多かったから、藍田さんのこの恒例のことは知らないと思ってた。


するとガラガラ、と教室のドアが開き、やっぱり不機嫌な(だから何で…)藍田さんが出てきた。

「あっ!サリーちゃんだ!何?俺の格好良さに惹かれた!?」

「何胸糞悪いこと言ってるの美作。ていうかそう呼ぶの止めてくれない!?」

サリーって言うのは藍田さんのあだ名だ。ていうか美作くんしか使ってないけど。
藍田莉沙の名前からサリー。


4人でぞろぞろ保健室へ向かう。
途中、そういえば、と僕は口を開いた。

「そういえば藤くん…さっきのケガってわざと…」

そこまで言った所で藤くんは「別に…」と返してきた。

「サボりたかっただけ。
かったるいんだよ美術とか…
将来何の役にたつんだっつーの」

確かに苦手そうではあったな…と僕は苦笑いをした。藤くんの作った今日の『自分の顔』。あれはお世辞でも上手いとは言えなかった。

「あはっ、たしかに笑えたよねー藤の作った『自分の顔』」

僕が心の中にしっかりと閉まっていた言葉を、藍田さんはするりと言ってのけた。
しかもあの藤くんに、だ。

そういえば他の女子は皆藤くんのこと黄色い目で見てるのに、藍田さんはそんなこと1度もないな…でも藍田さんが藤くん見てキャーキャー言ってるの、想像つかないな…。

「うっ……うるせーな!お前だって似たり寄ったりじゃねぇか!」

藍田さんのも思い出してみる。
…本当だ。あんまり変わらない気がする。

言い合っている2人の前を歩いていた美作くんが突然振り向いて左手をつきだし制止のポーズをとった。

「おい!!ちょっと待て!!!!
オマエら……本っ気で保健室行くつもりなのか…!?
特に空気の読めないそこのオマエ藤!!」

「だったら何だよ」

「今の保健室がどういうトコだと思ってんだよ!
あの新任スゲー怖えーってウワサで持ちきりなんだぞ!!」

改めて思うとそんなトコに僕だけ行かせようとしたのかこの人…

「そんなトコに今ノコノコ行ってみろ!!
帰ってきたころにはオマエらもといオレやサリーちゃんまで…
珍獣扱い必死だぜ!?」

そう力説した美作くんに藤くんは「知るかよ。俺、寝たいだけだし」と一刀両断。

「じゃ、じゃあサリーちゃんはどうよ!
あんなとこ行ったらサリーちゃんなんてペロッと喰われちまうぜ!?」

今度は藍田さんに力説し始める美作くん(ペ、ペロッと喰われるって…)。
だけど藍田さんも保健室にいく気みたいだ。

「んー、別にどっちでもいいけど、あの先生はサボらせてくれるか一度見ときたいしね、いい機会だから行ってみるよー。沙織先生はすぐ仮病見抜かれて保健室入れなかったんだよねー」

「あれ?じゃあ藍田さん授業出てない時はいつもどうしてたの?」

僕の質問に彼女はんー?と間延びして応える。たまに最後を伸ばすのは彼女の癖だ。

「屋上行ってたんだ。合鍵作って」

何でもなさそうにポケットから屋上の鍵らしいものを取り出す藍田さんに、僕達3人は全員固まった。何でそんなデンジャラスなことを…(しかもなんかカッコいい…)。



やっぱり帰りたがる美作くんと藤くんが喧嘩し始めた。
仲悪いなあ2人共…

でも…藤くんってああいうトコがカッコいいんだよな―――…

噂なんてものともしてないし……






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