そうか、君達があのアシタバくんと藍田さんだね
ヒールの音を連れながら三途川さんはそう言った。
商店街から離れる方向へ歩きながら、私達は三途川さんに着いて行っていた。
先程アシタバと私が彼女に、やりそびれた自己紹介をした。私達の名前に聞き覚えがあるのか、「あの」という指事語を使い、やや楽しそうに唇の端を柔らかくあげた三途川さんはこちらに視線を投げかけた。
「僕達のこと、知ってるんですか?」
驚いたように、私の前を歩くアシタバが言った。尤もな疑問だ。
「ああ…ごめんね、僕が話したんだよ」
「勇気ある保健室の利用者だそうだね」
仕事のことなんかも話す仲なんだ。というか、三途川さんの年齢が全く予測できないんだけど何歳なんだ…。
「勇気あるってほどじゃないと思いますけど…お二人共仲がいいんですね」
「逸人君とは昔からの付き合いだからね」
「そうなんですかー」
よ、余計にいくつか解らなくなった…。
「保健室にはよく行くのかな?」
「そうですね、行くっていうか…保健室で寝るのが好きな友達宛にプリントや手紙やマンガなんかを届けに行かされることはよくありますけど」
「私は体が元々弱めなんでたまに休ませてもらってます」
みたいな会話をしつつ歩いていると、三途川さんがあるところで立ち止まった。向かいにコンビニがある、普通の道路である。
「そうだな…このあたりなら見つけ易いか」
前にここで三途川さんが気になるものを見たらしい。気になるものってなんだ?しかもすぐにハデス先生も何かわかったらしい。私はアシタバと一緒に頭にハテナマークを飛ばすことしかできなかった。
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「あっ、ありがとうございました!」
ぺこぺこと頭を下げる、神経質そうな男の子をに笑って応えるハデス先生の背中を眺める。
ちなみに時は経ってもう夕方である。公園のベンチに三途川さんとアシタバと3人で座る。
三途川さんが言っていた気になるものとは、病魔のことだった。今ハデス先生と喋っている男の子がコンビニで大量の商品を万引きした所を遭遇した。「やりたくないのに盗んでしまう」という彼には病魔がついていたらしく先生がそれを「食べた」ことでこの件は解決し、今に至るという訳である。
「ん?何か言いたそうな顔だね」
いきなり三途川さんが喋りだしたからなんのことだと思ったら、「えっ!?」と焦った声でアシタバが反応したので、彼女はアシタバに言ったのかと理解。というか、アシタバ三途川さんへのリアクション挙動不審すぎないか?まあ変わった人だとは思うけど…
「いやあの、そんな……ただ、ちょっとびっくりしたなーと…」
病魔のことご存じなんですね…とアシタバが続けると、三途川さんはハデス先生と付き合うとはそういうことだと返した。
「付き合…えっ!?」
だからどうしたんだアシタバ…。
「お…戻ってきたな。さて…私もそろそろ御暇するか」
「おや…もう行かれるんですか?」
ベンチから立った三途川さんに、こちらに戻ってきたハデス先生が声をかけた。
「私の用事は以上だよ。邪魔をして悪かったね。おっと…そうだ」
そうして三途川さんは私とアシタバに手招きした。私達が近付くと、彼女は私達の耳元に口を寄せ、
「君達の先生は外見こそあんなだがとても心根の優しい子だ。これからも逸人くんをよろしくね」
と低く囁き行ってしまった。
ハデス先生への気遣いから、旧くからの付き合いが伺えた言葉だった。本当に仲が良いんだなあと思う。
「何の話してたの…?」
ゆらあっと近付いて私達に声をかけたハデス先生に、アシタバはびくっと肩を揺らせた。
「あっ!?いや別に変な話じゃないですよ!ただ…」
「あれ……シンヤ?」
「!!!」
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