ちら、とアシタバの方を見ると、アシタバは複雑な、なんか苦しそうにも見える表情でこちらを見ていた。


「いやあ…こんな時間に藍田さんとも会えるなんて嬉しいよ…」


「私もですよー」


「そ、そうだ、良かったら藍田さんも一緒に…」


「は?」


あ、やば、アシタバに素で嫌な顔をしてしまった。アシタバはビビったけど私が予想したほどではなかった。


「あー、ごめんごめん。私買い物してて牛乳とか早く冷やさないとだから。じゃ」


スッとナチュラルにアシタバのわきを通り抜けてその場を去ろうとした時、ガシイッと力強くアシタバが私の腕をつかんだ。


「ちょっ…」


「(お願い藍田さんんんん!!!助けて!!!一人にしないで!!!)」


なんか凄い目で訴えられた。


「(む、無理よ!私だって学校外で先生となんか居たくないわよ!!その腕をどかしてええええ)」


「(そこをなんとかああああ)」













「いやぁ、藍田さんも一緒に来てくれるなんて…僕は幸せ者だよ…」


「お約束だよ…」


「? 何か言ったかい?」


「いえ……何も……」




結局先生達と同行することになってしまった。
しかも牛乳を冷蔵庫に入れるためにいったん帰った。そのまま家にいたかった切実に。
しかし心底ほっとしているアシタバと心底嬉しそうなハデス先生を見るとああもういいかな、とか思ってしまった。


最近思うのだが、私ってアシタバの頼みに弱いよなあ。他の人の頼み事ならすぐ断れるのに。


私が先生とアシタバの会話を聞き流しながら考え事をしていると、「逸人くん?」凛と通る声が私の思考を遮った。私達が振り向くと物凄いゴスロリ服(ちょっと暑そう)を着こみ、ステッキを持った背の小さい女のひとがいた。

物凄く雰囲気のある女性だ。そのひとは、この風景にそぐわん人間がいると思ったら……やはり君だったか、と結構失礼なことをおっしゃった。逸人くん、っていうのはハデス先生の下の名前だったか。先生の友人か何かだろうか。


「今帰りで?」


先生もつっこめよ。結構あからさまに先生のことけなしてたよ…?まあ、ハデス先生にツッコミを求めるのも無理な話しか…。


「ああ、偶然だな」


「あ…あの……ハデス先生、まさかとは思うけどこの人は…?」


アシタバが、口に手をあてながらおずおずと先生に問いかけた。

「? いや…まさかも何もこの人は…」

「ああ、自己紹介がまだだったね。三途川千歳が本名になる。今後ともよろしくね」


ハデス先生の言葉を引き継ぐようにして言った彼女は、三途川さん、というらしい。「あ!ど、どうも…はじめまして」となぜかキョドり気味で返したアシタバの後で私も「よろしくお願いしますー」と返した。


その後三途川さんがハデス先生に話しかけている間、アシタバがなんか後ろを見て固まっているのを見つけ、視線をたどってみたけどもう見ていたものはなくなってたのか、何も見つけることはできなかった。


「どうしたのアシタバ、何かあった?」

「えっ!?い、いやっ別に何も!」


「君達」


「「!?」」


私とアシタバの前にずいっと三途川さんが寄ってきて(顔が近い)思わずのけぞる。


「悪いが先生を少しの間借りても構わないだろうか?よければ君達も一緒に来てくれると嬉しいが…」


さっき三途川さんは先生に「相談があって」どうのこうの、と話してたと思うんだけど、私達がついて行って良いものなんだろうか。いまだ表情が固いアシタバも同じことを思っていたらしく、2人で顔を見合せる。


「あの、私達がついていってもいいんですか?」

「ああ、もちろん」


薄い笑みのまま返された言葉に、それじゃあ良いかなということにする。あまり長くなりそうだったら途中で抜けさせて貰おうと思う。ほんとに夕飯作らなきゃだしね。






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