「いや…大丈夫だよね、第一バレンタインなんて何ヵ月も先のことだし、あいつらが覚えてる訳ないし…よしそう大丈夫大丈夫」
ガコン。
自販機の中で紙パックのミルクティーが落ちる音がした。周りである1階の渡り廊下には誰もいない。
さっきのバレンタインの件は、時間を理由付けて私の頭から強制排除した。チョコつくるとか嫌だしね。材料費高いし。
教室へ帰りながらミルクティーにストローをさす。口に含むと柔らかい甘さが広がった。うまい。
1階の階段近くで、シンヤと会った。シンヤは私を見つけると笑顔で手を振ってくれた。あー、かわいいなあシンヤ。
「莉沙!丁度良かったわ。ね、今日の放課後空いてる?」
「放課後?ごめん、今日は多分無理かなあ…夕飯作らないといけないから。買い物でも行くの?」
「ううん、それが…」
「?」
「…あの、聞いてくれる?」
「ハデス先生の秘密?」
問い返すと、シンヤは真剣な顔をしてうなずいた。
「そう、いくら何でも先生、謎が多すぎると思うの。絶対何か他の人とは違う素性があるはずよ」
「素性って…」
「ねえ莉沙、何か知らない?」
「さあ…別にそういう話は聞かないけど……先生の秘密と放課後ってどういう関係で?」
「いや、それは、その…」
言いづらそうにするシンヤの言葉を待っていると、
「もし、誰も知ってる人がいなかったら放課後の先生を“張り込もう”と思って…」
「……っは、」
張り込みぃぃぃ!?という私の声は思わず大きくなった。シンヤがあわててしーっ!と私を諌める。
「シンヤ、いくらハデス先生のことが好きだからってそれはやりすぎ…」
「ちょ、莉沙、それはち、違うって言ってるでしょう!?私はただ先生を尊敬してっ……それにこれは最後の手段よ!私だってこんなことしたくないし…あ、ねえ他に先生のことしってそうな人知らない?」
真っ赤になって否定されても信憑性に欠ける。この間の事件の後に問いただしてもおんなじような顔でおんなじように否定されたのを思い出した。
話題を強制的に転換させられたのはちょっと不満だったけど、慌てるシンヤがかわいそう(可愛かったけど)だったので許そう。
「しってそうな人…って言っても、生徒の中でハデス先生と関わったことあるの私とアシタバ達しかいないし…」
そう言うとシンヤは神妙にうなずいて「そう…」と呟いた。
真剣すぎてちょっと可笑しい。
「やっぱりアシタバ君にも聞いてみないといけないわね…」
(いや別にいけないことはないと思う)
「わかったわ。ありがとう莉沙」
「ううん、私こそついて行けなくてごめんね」
「いいの。私もあんまり良いことじゃないって分かってるし」
そうやってシンヤと別れた。まあ別に夕飯だけだから行けるっちゃいけるんだけど、正直面倒だったのが本音だったりする。でも、
「………断っといてよかった」
ごめんシンヤ。
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