「…っつっても、一体どこ行ったんだ?鏑木ちゃんは」

勢いよろしく、保健室を出てきた私達だったのだが、何分どこを探せば良いのかわからない。耐えかねて美作が弱音を吐き出した。


「うーん…教室に戻ったとかじゃないのかなぁ」

「でもよーアシタバ、まだ昼休みは20分以上残ってんだぜ?」

確かに。美作の言うことにも一理ある。まだ昼休みは始まったばかりだから、鏑木さんが必ず教室に戻ったとは限らない。


「でも他に思い付く所ないんだから、とりあえず行ってみない?転入したばっかならまだ行けるところ少ないだろうし」


私の一言(かどうかは分からないけど)で、B組の教室に向かってみる。途中くだらない雑談をして、藤と美作が喧嘩して、それを私が一蹴…なだめていたら、教室の少し出前の廊下で女の子達がもめているのが見えた。



よく見ると、女の子3人と、現国の伊藤先生だ。
先生と…あれは、鏑木さん(!)がもめてて、周り2人がなだめている。もめてる、っていうか先生の方が一方的に怒ってる様子だ。でもあの先生って、こんなにキレやすい性格してたっけ?


しまいには、鏑木さんは先生にどこかへ連れられて行ってしまった。


「おーい!」


皆で慌て走ったけど追い付くことは出来なかった。


「待ちやがれこの変態クソ教師!!」

「ちょっと待て単細胞デブ!」

またもや美作と藤の口喧嘩が始まった。
けど私もアシタバも今は構ってられないので女の子達に話を聞くことにする。


「あ…あの、鏑木さん…何かしたの?」

「何もしてないよ!ウチらフツーに喋ってただけだし!」

「あの…現国の伊藤先生、ふだんはもっと優しくて面白い先生なんだよ。
なのに…」


「急に人が変わったみたい…」


「…!」
"急に人が変わる"

そのフレーズで思い出すのは、この間の美作の事件だ。
あの時も、美作の周りにいた女の子達は明らかに変わっていた。
それに鏑木さんの後ろ姿を見る先生のあの表情にも引っ掛かるし……もしかして鏑木さんは病魔にかかってるの?
でも鏑木さん自身に変わった所はなかったし、さっきみたいに「周りを怒らせる」みたいな病魔なら私達や女の子達も怒ったはずじゃない?もしかして病魔じゃない?……もしくは病魔でも自分に変化がないまま特定の人にだけ変化が起きるタイプとかあるの?
…あとは…病魔にかかってたのは先生の方とか?
でもそれじゃああの先生の表情は一体…



「…ってあ!皆いねぇ!」


ちょ、置いてくとかアリ?









*********




とりあえずアシタバ達より鏑木さんを優先、怒った時に連れて行きそうな所を探そうと思う。


まず普通に叱るなら職員室か教科の準備室……でも先生からは叱るって言うか「ムカついたから殴ってやりたい」みたいな雰囲気が出てたし…

となると、ベタぁーに校舎裏とか?




「あれ、鏑木さん!」


校舎裏に向かう途中の渡り廊下で、偶然鏑木さんを発見。ラッキー!


「あっ、さっきの…!ごめんね、いきなり出ていっちゃって…」

「いやいやいいの全然!あれは藤の…あ、あの金髪男子の無神経さが100%悪かったんだし。ごめんね?悪気は多分ないと思うんだけど」

「(多分なんだ…)ううん、いいの!」

「それより、大丈夫だった?さっき、先生に連れて行かれる所見たけど…」


私が問いかけると、鏑木さんは少し苦笑いした。


「うん、慣れてるから大丈夫。何でか分からないけど、よくあるの。あんな風につっかかれること」


よくあるんだ…じゃあ鏑木さんはやっぱり病魔に?


「慣れてるじゃないでしょ!絶対怖かったでしょ?今度なんかあったら言ってね?私でよければ聞くくらい出来るから」

「! ありがとう…!」


鏑木さんは、綺麗に笑ってくれた。


「!鏑木さんっ!」

「!?」

するとその時突然、廊下のグラウンド側から鏑木さんめがけて勢い良くボールが飛んで来た。



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