学校中で噂が立つこの保健室に、今まで私達(他の先生含)以外に人が来たことなんてなかったので、その元気いっぱいの声には皆が振り返って注目した。

その勇気ある人物は…



((((女子!!!!))))



しかも可愛い。
綺麗な黒髪でスカートの下にスパッツを履いている。見たことない子だ。他学年の子かな?


するとハデス先生、素早い対応で、ズイっと「やあ…いらっしゃい」…女の子に話しかけた。

うーんこれは攻撃力高いぞー普通の女の子ならここで黄色い声あげながら逃げ帰るレベルだ。


しかし私の推察とは裏腹に、彼女は少し驚いてみせただけで、あのどアップ攻撃にも何ら怯むことはなかった(凄っ)。

しかも目的の人を見つけたからかなんなのか、彼女はパアッと輝かせて手を合わせ、

「ハデス先生ですね!! あの噂の…
私2年の鏑木といいます」


……勇者だ。


「え?」

ていうか2年?こんな子いたっけ…


彼女は最近転校してきたらしい。あ、そういえば今朝友達にそんな話を聞いたような聞かなかったような…

保健委員に頼まれて、補充用のトイレットペーパーを貰いに来たそうだ。



「ふ…普通に会話してる…」

美作の言うことは最もだ。

「すごい違和感だよ」

「ありえねぇ…この保健室にかぎって」

「…あの子本当に女の子かしら、中に藤でも入ってんじゃないの」

「人のこと言えねーよサリーちゃんも女子だろ」

「つーか何で俺なんだよ」


ざわざわと騒ぎ出すソファー内。それだけ異例の、奇跡的な出来事なのだこれは。





「あの女…どっかで見たことあるような気がする」


さっきまで神妙な顔で黙っていた藤が口を開いた。異性のことなんてこれっぽっちも興味ない藤がこんなこと言うなんて、珍しい。アシタバの「藤くんが?」とか、美作の「オマエの記憶に残ってる女なんて珍しいな」なんて台詞にも頷ける。



「ま、まさか付き合ってたとかじゃ」

「てめーの頭ん中それしかねーのかよ」


しかしツッコミは忘れず。
ていうかさすがに付き合ってたらもっと覚えてるだろ。

藤はまだ引っ掛かってるらしく、頬杖をついて真剣に悩み出した。



「『鏑木』って名前も……かぶらぎ…」


暫く考えたようすで黙り込み、それからまだ探り探りという口調でゆっくりと口にした。





「"返し刃"の鏑木…?」


刹那、鏑木さんの肩が『ギクッ』という音が出そうなくらい飛び上がり、手にしていたトイレットペーパーの籠がドサドサドサッと床に落ちた。



返し刃って、何そのヤクザみたいな異名。



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