「快適だ」
圧迫感さえ感じさせる白い壁や家具に、ツンと鼻を着く薬品臭。
なんとも微妙な表情の美作とアシタバをよそに、奴は続けた。
「静かだし、風通しはいいし」
私はほうれん草のお浸しを一口。んんん、冷凍食品も中々あなどれないね。
「お茶は無限に出てくるし」
奴は飯を掻き込みながら、モゴモゴ言った。
「何より俺ら以外利用者がいないってのが最高だな」
「なにが最高だっ!!!!
藤!!オメー頭おかしいんじゃねーのか!?」
耐えきれず私の隣の美作がバン!と立ち上がった。
「保健室(こんなとこ)でメシ食ってうまいわけねーだろ!!」
美作が目を般若にさせて怒鳴り散らした。ちょ、お前唾飛ぶわ汚らしい!私はすぐさま美作と距離をおいてソファーの端に座り直した。
当の藤は美作の言っていることよりも、そのボリュームにイラついている様子。アシタバは冷や汗をかいて緊張ぎみだ。
「弁当なんざどこで食おうが大差ねーよ」
と、先ほどよりもやや大きな声で藤が反論した。
「ああ!?オメーはどうせアレだろ、ハンバーグ食ってる時馬フンの話されても平気な奴だろ」
「悪いかよ」
食事中にんな話すんのもよっぽど神経太いけどね美作。
「ちょっと美作やめてよ、私もアシタバもハンバーグ入ってんだけど」
私がそう言うと、アシタバはピクリと揺れ、こちらを向いた美作は「なんでそんな端にいんのサリーちゃん!?」と叫んだ。
「いやもしサリーちゃんが良いって言うならオレのおかずと交換してもいいけど…」
「美作のおばちゃん味付け濃くて好きな味じゃないからいい。むしろ私はアシタバのおかずがいいわ。それか藤のエビ」
アシタバのお母さんとは、仲が良い私。おばさんの作る料理はいつも私好みの味付けなのだ。
そして藤。何故かは知らないけどこいつの弁当はいつも豪華だ。しかもお重。渋い。今日は伊勢海老?種類は分からないけどゴツい海老が入っていた(美味しそう)。
「え、僕…!?」
「何言われてもやらねーからな。つーかいらねーんならハンバーグくれよ」
「は?誰があげるっつったよ自分で食べるわよ」
「いやどっちなんだよ!!」
私達がガヤガヤやっていると、奥で洗い物をしていたハデス先生がやって来た。先生は「昼休みに生徒が遊びに来てくれるなんて……教師にとってこんなに嬉しいことはないね……」と笑っていた。
一見するとこの表情もホラー極まりないが、最近になると先生の微妙な表情の変化にも気付けるようになった。(ちなみにアシタバに言ったら慣れすぎとつっこまれた)
今のは本当に嬉しいんだと思う。
先生は「おかわりどうぞ」と藤におかわりを出す。それに「おう」と答える藤も、慣れが早い。
まあ、私達がこんなにフレンドリーに只今最悪な理由で話題性No.1のハデス先生と話すことが出来ている理由は、前回の事件がきっかけなんだけど(そうでもなければアシタバと美作は近寄らなかっただろうし)。
残念ながら他の生徒に彼が理解されるには、時間がかかりそうだ(そういえば安田はそんなに怖がってなかったような)。
美作が出されたお茶を飲もうか戸惑い、藤が食事に勤しみ、アシタバが引き吊った笑顔で湯飲みを傾けていると、滅多に開かれないであろう保健室の扉が、勢いよろしくガラリと開いた。
「失礼しまーす」
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