「ん…」
目を覚ますと、そこは真っ白の世界でした。
保健室の死神 第2診しばらくすると、私の見ている真っ白な空間は天井で、温かく包まれているのは布団だと理解した。
消毒液特有の臭いに、窓から頬を撫でる風――――私は保健室にいた。
何で私保健室に…もしかしてまた倒れたのか。
目覚めてすぐの頭でさえ、保健室にいる理由が推測できるあたり、私も保健室通いに大分なれてしまったらしい。
「…あ、起きた?」
上から声が降ってきて、見れば私の寝ているベッド脇のイスに、安田が座っていた。安田とは、あの美作達と一緒に帰って以来割りと仲良くやっていた。アイドルオタクだということ以外はまあ普通の男子だった。多分。
「安田?……あ、私やっぱ倒れてた?」
「ああ、超ビビったんだからな、いきなりぶっ倒れて。運ぶの大変だったし」
「ごめん…運ばせちゃって……」
…って、ん?
「え……や、安田が運んだの?」
「そうだけど?」
「わ、私を?」
「藍田を」
頭がそれを理解した途端、私は本能的に安田と距離をとって身を縮めた。シーツを盾がわりにして。
「なんだよ急に!」
「あんた私に何もしてないでしょうね!?下心のうえ触ったり触ったり触ったり!」
「は、はぁ!?な、なななんだってそんな、」
「だってあんた!私が喋ってるときは気付かなかったけど、他の女子と喋ってるときなんか凄い鼻の下伸びてたでしょ!?あれは正直引いた!超引いた!あれを見られた後なんだから疑わざるを得んだろ!つーか絶対そうだろ!」
そう、それは遡ること3日前。安田とはまあそれなりに仲良くやってたんだけど、たまたまクラスの女の子(しかも可愛い)が安田に係りの事か何かで話し掛けて、それに答えた安田の顔が…多分直接見た奴にしか解らないだろうというくらい強烈に下心ムンムンな顔をしていた(女の子も引いていた)。
…うわあもうマジない!何で私安田の近くで倒れたかなあほんと泣きたい!
すると何を思ったのか安田は、
「い…いいだろ別に太ももくらい!」
ギャァァァァアアア!!!!
「太ももくらい!?何よ私の太ももを『くらい』なんて言い方するなら触んなよ!」
私達は保健室であるのにも関わらず喧嘩しまくった。だってこいつマジで凄い顔だったんだから!
「と、とにかく…今回のことは私も気絶してたし?大目に見るけど…」
安田がほっとしたように息を吐く。ただ私はそれで済ませるようなお人好しではない。
「こんど私に似たようなことしたらあんたの身についてる肉全部削いでやるから。私本気よ、本気だから」
「は、はい…」
そう見下してやった。とりあえずこれで今後は大丈夫だろう。
「でもまあ運んで貰ったのは感謝するよ、ありがとね」
「あ、ああ…じゃあ俺行くわ、もうすぐ4限だし…」
そう言って安田は表情を固まらせたままいそいそと保健室を出ていった。
安田が出ていってしばらく経つと、ハデス先生が来た。
「あ、藍田さん、起きたんだね。ごめんね、少し職員室に行っていて保健室空けちゃって…」
「いえいえ、大丈夫ですよー」
ハデス先生はお茶を湧かしながら「そう言えば安田くんは?」と聞いてきた。
「あ、安田はもう授業だからって戻りましたよ」
「そう?安田くん、とても心配そうだったから」
「え?」
「ふふふ、1限目だったかな、藍田さん泡吹いて倒れちゃったからね…休み時間になるとすぐ看に来てたから」
「…そうなんですか」
安田もバカだなー、そう思うと、笑みが零れた。
「とりあえずお茶、どうぞ」
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