さらら、さらら、


目の前で、金糸が揺れていた。絹みたいに綺麗だなあと眺めながら頬杖をつく。


何時もなら私の前の席は空いていることが多いけど、今日は朝から彼が座っていた。
しかも割りと真剣にノートまで取っているから、いつもの彼とは思えないほどだ。

藤くん、数学得意なのかな…。
私は根っからの文系なので、数学と理科は特に苦手だ。頑張って予習しても一体何がどうなってこんな答えになるのか。応用問題なんかは論外だ。うーん、藤くんや他の子たちはなんでこんなの解るんだろう。

藤くんは、ここ常中で一番と言われるほどのイケメンで、勿論私もかっこいいと思う。すごく。
そんな藤くんと同じクラス、しかも前後の座席になれるなんて、奇跡に近いことで、席替えがあったその日は1日中顔がゆるんでいた気がする。……お、思い出したら恥ずかしくなってきた。


しかも藤くんの後ろだと、藤くんが授業に出ている間は、思う存分藤くんを眺められる。あ、これはちょっと変な子みたいかな…で、でも見えちゃうだけだから、大丈夫だよね。
 
この席の難点といえば、多分黒板が見えにくいことだけかな。窓が近いから風が気持ち良いし。黒板は、私が小さすぎて見えないのだ。決して藤くんのせいじゃなく!


「えーと、ではこの問題の答えは……苗字さん、教えてくれる?」


「…―え、えっ!」


不意に先生に名前を呼ばれてピクリと体が跳ねた。…ぜ、全然授業聞いてなかったよ!どうしよう…きょ、教科書…いや、ノートかな?

「2章の問5よ」

私があたふたしていたら、苦笑しながら先生が問題を教えてくれた。少しほっとしながら教科書を見てみると…………んんん。むず、難しい!



「え、えーと3xは27yだから…あれ?24?」

小さく呟きながら計算するけど、解ける気がしない。この公式で、合ってるんだよね…?でもとけないよ…!


「苗字、x=8」

「っっ!」

癖でほとんど真下を向きながら、教科書と睨み合ってたら、私の耳元で誰かに囁かれた。息が、耳にかかってくすぐったくて、一気に顔があつくなった。

びっくりして顔をあげると、目の前に、首だけ伸ばしてこちらを向いている藤くんが!それに、か、顔がちかい…っ 
 
藤くんは顎で先生を示した。え、どういう………あ、そうか、答え!教えてくれたんだ!


はっとして、私は先生に「え、x=8、です…」と答える。先生は「ええそうね、これは…」と解説を始めた。

藤くんはそのまま満足したように少し笑うと、前を向いてしまった。


私は、真っ赤になったまま取り残されてしまったし、隣に座る私の親友のにやにや顔も目に入っていたけど、そんなこと考える余裕はなくて、授業中はこの火照った顔を静めるしかできなかった。


「ゆ…ゆめみたい……」









第一歩は授業中から

(ふ、藤くん!さっきは、あの、あり…)
(別に。後ろで煩かっただけだし)
(え、えっ…!)




それから、ちょっとだけ仲良くなりました。

「苗字ー、保健室で寝てくるから放課後になったら起こしてくんねー?」

「えっ…!」

「じゃ、ヨロシクー」
「あ、ちょ、ふっ、藤くん!」


…仲良く、かな?

 


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