女が男に惚れる時は、顔や性格、能力など、その人物が持っている"魅力"を総合して条件付けるらしいが、男は女の特定の部分―――つまり顔や手や足、性格やしぐさなど人によりそれはバラバラだが、その特定の部分がすきだと感じれば、それはイコールその女がすきということになり恋愛にまで至るらしい。

これがいわゆる"男女の恋愛の価値観の差"らしいが、正直これを最初にどこぞのバラエティー番組で知ったときは、そんなものどっちでもいいと思った。


元々惚れた腫れたの話にはあまり興味が湧かなかったし、その男女の差を知ったところで意味はないだろうと感じた。




「暇だ…」



昼休み、ハデスの出張で保健室のベッドが使えなくなり、アシタバ達もなんだかんだと用事があるらしかった。

珍しく暇な昼休みだった。



人が多いところにいると女子がうるさいので、教室には長居したくない。俺は適当に廊下をぶらぶらしていた。



「ったく…誰か1人くらい暇な奴はいねえのかよ………ん?」


誰に向けるでもなく1人ごちていると、錆びた鎖で封鎖された登り階段を見つけた。見上げると十数段の階段の後すぐに鉄製の扉がある。掃除をしていないらしく、鎖の向こうはえらく埃っぽい。


「屋上の扉…こんな所にあったのか」


普段は移動教室でも使わない廊下だったから今まで気付かなかったんだろう。
しかしこうやって見るとここだけ薄暗くてすぐ気付きそうなものなのに、この1年半分からなかったとは随分不思議に思えた。


暫く眺めていると、階段に着いている分厚い埃が足形に拭えていることを発見した。
まだ新しいようだ。しかも帰った跡がないから、もしかしてまだ上にいるのかもしれない。



この時、いつもの俺なら面倒くさがってやめていたはずだ。
上の奴と会ってもしそいつが先生だったりしたら、あの鎖にぶら下がっていた「関係者以外立ち入り禁止」のプレートのお陰で多少なり説教を食らっただろうし、生徒でも知ってる奴じゃなかったらこんな立ち入り禁止の場所で何話せば良いのかも分からない。

しかし俺はいつの間にか惹き付けられでもするように、その鎖を潜っていた。
階段は廊下よりじめっとしていて、埃の匂いで噎せ返りそうだった。壁を触ると、そこにも埃が着いていて、一体どれだけ掃除してないんだと眉をひそめる。不衛生極まりないそこには、蜘蛛の巣や紙くずが、当たり前のように景色の一部になっていた。


階段を上がると、誰かの足跡に、少しズレて俺の足が重なる。俺より小さな跡だった。


扉の取っ手に埃はついていなかった。
少しためらった後、ゆっくりと扉を推し開ける。





ギイイイ。

古い金属が軋む重い音が、とても耳に残った。
風が強く、髪が顔を打つ。段々と暖かくなっては来ているが、屋上はまだ肌寒かった。

屋上の印象は、階段とたいして変わりなかった。
そこは物置代わりになっているようで、使い倒された机やロッカー、その他諸々の古びた備品が端に寄せられ、どこからか季節外れの枯れ葉も運ばれてきていた。



「………」


このお世辞にも綺麗とは言えない空間の中で、ぽっかりと浮かぶように佇むその後ろ姿に、奇妙な感覚を覚えた。




俺は、彼女に魅入っていたのかもしれない。
なぜかその時、その女子生徒の足が―――流れる黒髪でも、その髪をすくう細い指でもなく足が、綺麗だ、と思ったのだ。
…改めて文字にするとただの変態だが。
何て言うか、その生徒の足が、とても神聖なものに感じたのである。すきだとかかわいいだとか、そんな表現を超えた、表すにも恐れ多いようなくらい美しいと。







「…藤くん?」


女子生徒がゆっくりと振り返り、その口で俺の名前を紡いだ途端、俺は別の世界から一気に引き戻された。
しかも相手は、見知った人物だった。


「…え、あ……苗字…?」


俺と苗字は同じクラスだ。大した会話はしたこともないが、同時におれは苗字の足が綺麗だなんて、一度も思ったことがなかった。
俺の記憶する限りでも、正直見惚れてしまうほどのものではない。


「どうしたのこんな所に」


ちょっと眉尻を下げて、困ったように笑う苗字は、いつもの嘘臭い、貼り付けたような笑顔に戻っていた。嘘のない姿は美しかったのに、

(君はそれを誰にも見せようとしない)





屋上シンデレラ

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最初はこんな話じゃなかった(^q^)/
ヒロインちゃんはいつも教室では素じゃなかったんですね。


ちなみにシンデレラに出てくる王子さまはシンデレラの足に惚れたんだと聞いて書きました^^
本当かどうかは不明ですが




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