※原作ネタバレでおまけに捏造がひどいです。それらを踏まえて大丈夫な方はどうぞ。







「四・木・の・だ・ん・な〜」


背後から忍び寄る気配がしたと思えば同時に己の肩に腕を回され、もはや何度目か分からない溜め息をひとつ、零した。
最初の頃は一応上司ということもあってか、振り解こくことも出来ずされるがままだったが、今、同じ幹部としての立場にいる身としてはこうして叩き倒すことなど造作もない。


「あいてっ!」
「何の用ですか、赤林さん」
「…相変わらず手厳しいねぇ、旦那は。でもそういうところがおいちゃんは気に入ってるんだけどねぇ」


赤くなった手の甲を振ってけらけらと笑う姿はどこかあの新宿を根城とする情報屋を思い出させる。
猫の皮を被り、真意を見せず飄々と決して流れに逆らわない、しかし油断などすれば最後、一気に喰われてしまいそうな――だが、あいつはガキだ。
それこそまだ己の手の内で飼い慣らすことが出来るものの、目の前にいる男相手ではそうはいかない。

下手すれば、一番厄介な人物と言っても過言ではないだろう。


「ふざけたこと言ってないで、さっさと用件だけ教えてもらいますか」
「俺はいつでも大真面目なんだけどねぇ……やだなそんなに睨まないでよ旦那、昼飯まだでしょー?蕎麦でも食いに行きましょうや」


あ、豪勢に寿司でも良いかもなぁと暢気に杖を振り回す姿に呆れるのも、これで何度目になるのか。
そんな態度でいつも過ごしているから組内での信用が薄いんだと言いたくなるが、それは本人が一番理解しているだろう。
……理解しているからこそ、質が悪いのだが。


「…すいませんが、私は先程部下と食事を済ませてきたので」
「そこの部屋でアンタの部下達がカップめんを食べてるのを見たんですけどねぇ。俺もついに老眼なのかねぇ」
「…………」


予想はしていたがやはりその場しのぎの嘘では、逃げ切れなかった。
見え見えと言ってしまえばそれまでだが、実際何度かこの手を使って切り抜けたことがあり、今回も試してみたものの、流石に毎度引っ掛かるほど愚かではなかったようだ(それでも今まで騙されていたという事実もそれはそれで問題だと思う)。
何故こうも俺にばかりちょっかいを出すのか、訊いてみたところで無駄だとは思うので、その真意を探るべく色眼鏡の奥を射るように睨む。
けれど、返されたのはすっとぼけた返事とへらへらとした笑い顔だった。


「? 何ですかい、そんなおっかない顔しちまって」
「いえ、別に…」
「……ははーん。もしや旦那、俺の瞳にやられちゃったりとか「すぐにそういった方向へと向かう頭は呆れを通り越してむしろ尊敬に値しますよふざけるな死ね」」
「おお、怖い怖い。やだなあ冗談に決まってるでしょうよ」
「アンタのは、冗談に聞こえないんだ」


そうだ、昔から。
昔から全部冗談なのか、本気なのか分からなかった。
蠅のようにしつこく纏わりついて、振り払おうとすればするほど引っ付いて離れようとしない。
鬱陶しくて、暑苦しくて、面倒でおまけに気分屋で。

けれど一番許せなかったのは。

己の領域を荒らされてるにも関わらず、不思議と居心地を悪いと感じない自分自身で。
初めて仮面を貼り付けたような笑顔で近寄ってきた時警戒を解くことは一度としてなかったのに、その笑顔が己に対してだけに向けられた紛れもない彼の本心だと気付いた時はどう思ったのか、今ではすっかり忘れてしまった。

「旦那」
「…?」
「俺はいつでも本気だったぜ?」
「…!?」
「ま、とりあえず早く飯行きましょうや。おいちゃんお腹ペコペコ〜」


ほんの一瞬、だけだった。
例えるならそれは、獲物を決して逃がさない狩人のような瞳。
直ぐにまたいつものおちゃらけた調子に戻ったが、深い闇しか映すことの出来ない筈の彼の右目には、有り得ないと思いつつも、しっかりと自分を見据えていることがひしひしと伝わってきた。
結局俺はこの人には適わないんだ、今も昔も。

ならば。


「…寿司なら、露西亜寿司でお願いしますよ」


但し、全額貴方持ちでと一言付け加えるとにやけ顔がピシリと固まった。

いつも振り回されているんだ。

これくらいの仕返しなど、可愛いものだろう?



fin.


赤四木好きすぎてやばいです。


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