そもそも最初から間違っていたことだと。
気付いていたのにも関わらず、ずるずると引きずってこの爛れた関係を断ち切れなかったのは、心のどこかでほんの少しの期待を持っていたからだったのかも、しれない。
好きだの嫌いだの、恋だの愛だのと、そういうまどろっこしいものは抱き合っている時にだけ、忘れられたのに。
荒い息遣い、渦巻く欲望と熱情が部屋を埋めていく最中で俺を求めてやまない臨也の顔が余りにも愛おしく思えてしまったから。
魔が差した、とはこのことを言うんだなと実感した。


「…好きだ」


衝動とも言えるその一言が、同じ律動を繰り返していたベッドの軋みを止めさせ、熱く甘ったるいものを忍ばせた空気は静かに底冷えていくのを感じた。
俺の身体の下で快感に身を委ねていた臨也は決して口にしてはいけない、いや、口にすることはないと思っていたはずの言葉を真正面から受け止めて、身の毛がよだつ程の優しい猫なで声で俺に向けて言った。


「俺はね、大嫌い」


世界で一番、シズちゃんが大嫌いだよ。

薄い唇から吐き出された言葉は残酷で、まぎれもない拒絶だった。
けれど。
どれほど抉られるような痛みが胸を焼き、理不尽と言える怒りが湧き上がろうとも。

今にも泣きそうな顔を見て、やっぱりどうしようもなく俺はこいつが好きなのだと再確認してしまう程には。

後戻りなど出来ない所まで堕ちてしまったらしい。



fin.



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