※臨也が女体化しています。苦手な方はご注意下さい。 「平和島くんおはよー」 「お、おう」 「今日も良い天気で良かった。プール入れるね」 「あ、ああ」 にっこりとした朗らかな笑顔、明るい性格、良く通る透き通った声。数を挙げればそれこそキリがない位、完璧な存在である彼女…折原臨也。長い黒髪は艶やかで一見おしとやかに思われるが、話すと意外とさっぱりしており、そういうところがまた魅力的だと周囲の人間達は騒ぐ。 そんなマドンナ的存在である彼女が何故俺に毎朝声を掛けてくれるかと言えば俺が朝一番に教室に居るからだ。彼女が誰より早く登校していると数少ない友人が教えてくれて、それを知ってから俺は遅刻魔を返上して彼女よりも先に教室へと向かうという訳だ。 時間にすればほんの二十分程度で、すぐにまた次のクラスメイトが入ってくるがこの僅かな時間が一日で一番至福の時になる。 「平和島くんて入学したときから金髪だったよね。それ自分で染めたの?」 「まあ、中学の時の先輩に言われてな」 「いいなー。俺も思い切って染めてみよっかなー」 「いや、俺としてはそのままの方が………!!!」 言ってからハッとなった。今、もしかして俺は結構恥ずかしいことを言ったんじゃないか。 (ななななに言ってんだ俺は馬鹿か!そのままでいいって馬鹿か俺は馬鹿なのか!) 彼女からしたらただ何気なく呟いた一言だったのかもしれないのに、聞かれもしない自分の意見を思わず言ってしまい後悔した。 「え、マジ?じゃあ平和島くんがそう言うならこのままでいよーっと」 今は染めない方が珍しいもんね! そう快活に笑う彼女に心臓がどくん、と大きく跳ね上がる。 この屈託の無い笑顔にやられたんだっけと脳の片隅で思いつつ、顔面に熱が集まるのを感じて見られないよう背ける。 窓の外を見ると登校する生徒が徐々に増えてきて、もうすぐこの時間も終わっちまうなとぼんやり思っていると背後に気配を感じ、後ろを振り返えってみれば。 目に毒のような光景が目前に広がっていた。 「うおっ…!」 「肩にゴミ、付いてたよ」 どうやら俺の肩に糸くずのようなものが付着していたらしく、突然の出来事に対する俺の反応に「なんでそんな驚いてんの?」と面白そうに笑う彼女。先程よりかなり縮まった距離に更に心臓が脈打つ。 こんなに近くで見るのは初めてではないか。 漂う甘い匂い、長い睫毛に白い陶器のような肌、三日月を描く薄い唇は乾燥なんて知らないとでも主張しているかのように艶々していて。 思わずキスしたい衝動に襲われ……… 「って、なにを思ってんだ俺は!!」 「うわなに!」 「い、いや、あの…悪い。ありがとな」 「ふふ、変な平和島くん。ていうかずっと思ってたんだけど平和島くんて名字長いから呼びにくいんだよね。なんかあだ名とかないの?」 「…特にねぇな」 「じゃあさ、シズちゃんって呼んでもいい?」 「シ、シズちゃん?」 名前を呼び捨てで呼ばれるんだろうかとドキドキしていた俺の期待を見事に裏切る形で呟いた彼女の言葉に肩を落とし、正直その呼び名はもの凄く複雑なのだけれど、きらきらした目でこちらを見てくる様子に断るなんてことは勿論できるはずもなく。 惚れたもん負けだと言い聞かせ了承した。 「…折原がそう呼びてーなら」 やったー!と飛び跳ねる彼女。 …畜生、可愛い。 「そしたらシズちゃんは俺のこと、臨也って呼んでね」 「お、おう」 「今すぐ」 「………い、」 「……」 「…いざ、や」 「なーに?シズちゃん」 嬉しそうに首を傾げてにやにやと笑っているその顔を見て、ようやくからかわれたことに気付く。 「お、まえなあ…!」 「あははっ!ごめんごめん!シズちゃん可愛いんだもん」 お前の方が可愛い、とは流石に言わなかったが腹を抱えてケラケラ笑う姿にまたも目を奪われる。 彼女と知り合ってから、つまらなかった日々が一変にしてその色を変えていった。 最初は眺めているだけで満足だったのに、いつの間にか彼女の全てを自分のものにしたいとまで思うようになり、自分が自分でなくなっていくような、ある種の恐れを抱いたこともある。 こんなに一人の人間を好きになったのは、初めてだ。 胸の奥から何かじわじわと熱いものが湧き上がる感覚に抑えきれず、気付いた時には口が勝手に開いていた。 「臨也…!」 「ん?」 「お前に伝えたいことがあるんだ」 「? なに?」 「その、俺、…ずっと前からお前が」 「やあやあ静雄に臨也もおはよう!ねぇ聞いてよ昨日愛しのセルティがもう可愛くて可愛くてさぁ………あれ、僕もしかしてお邪魔だった?」 …………………………。 「新羅てめええええ!!」 「え、うそ、ちょっとこれ事故だよね?わざとじゃないんだよ静雄うぐぐぐぐ」 故意ではないにしろ、余りにもなタイミングの悪さで勢い良くドアを開けて教室へ入ってきた友人の襟を掴みあげる。 (もうちょっとで告白できそうだったのによおお…!) 混乱やら恥ずかしさやらで頭がパンクしそうになる中、後ろに立つ彼女の顔さえ見れぬまま友人を締め上げていると、不意にトントンと肩を叩かれた。 「そこまでにしてあげなよ。続きはまた明日聞くからさ…それと」 他の人にはシズちゃんってあだ名、呼ばせないでね。 耳元でそう囁いて、長い髪を靡かせ教室から出て行く彼女に対し、俺は何も言えず只後ろ姿を見送ることしか出来なかった。 明日になればまたこの気持ちを再度伝えることが可能となったのに、何故かそれは出来ないような気がしたのはきっと、去り際に見せた彼女の微笑みがいつもの華が舞うような笑顔でなく、酷く毒々しい感じがしたから。 それでも明日、彼女に会うべく俺はまた朝一番に登校するんだろう。 fin. |