※幼なじみ設定です。一種のパラレルだと思ってお読みください。 昔から、それこそ物心が付いた時から側にいた。 毎日喧嘩喧嘩喧嘩…顔を合わせればとりあえず罵りあって殴り合ってそれを互いの親が必死で止めて、それでも何故か一緒にいた。幼稚園、小学校、中学校、高校とまで同じでそんなに嫌いなら離れればいいのにと周囲は口を揃えた。学校でも変わらず喧嘩ばっかの日々で、だから俺達の周りには人は全く寄らず、友達もロクに出来なかった。 そんなある日、あいつの両親から切羽詰まった声で電話が掛かってきた。 臨也がまだ家に帰ってこない、何か知らないかと。 普段の俺ならどうせ夜遊びだろうと心配なんて微塵もしないのだがこの時ばかりは嫌な予感が頭をよぎり、無我夢中で探し回った。通学路、ファミレス、公園、思い当たる場所は全部回ったが、見つからず諦めようとした時にふと臨也が虐められていると風の噂で聞いたことを思い出した。 勿論あいつはそんなタマではないし、むしろやられたら十倍やり返す奴だということは幼なじみの俺がよく知っていた。だからなのか、余計に不安が募り夜中にも関わらず学校へと向かった。 『なーんでシズちゃんが此処に居るのかな?』 あいつは男子トイレに閉じ込められていた。ご丁寧なことに力ずくでは中々開けられないよう細工まで施してあったので思い切り蹴破ると、中でうずくまっていたあいつが俺の顔を見るなりそんな言葉を投げかけた。 足元に広がる水溜まりと未だ乾いていないずぶ濡れの制服を見れば何をされたか一目瞭然。それでも俺に対して気丈な態度をとるのは弱さを見せないする精一杯の強がりだと分かってしまった。 殴られたのだろう青あざやら凝固した血液がこびりついて見るからに痛々しい顔にはうっすらと涙の跡が弧を描いていたから。 それを見た瞬間、自分にもどうしようもない想いが次から次へと溢れて気付いたら目の前のボロボロな身体を強く抱き締めていた。 『…シズ、ちゃん…』 怖かった、と。 聞こえるか聞こえないかの大きさでポツリ呟いて、俺の胸で肩を震わせ涙を流した。 そのときになって俺達が何故忌み嫌いながらもお互いから離れられないでいるのか、明確な答えが出たわけではないがようやく理解出来た気がした。 孤独。 俺達が何よりも恐れていたもの、対立することによって今の今まで埋め合わせてきたもの。 気付かないうちに、こんなにも寄り添い合って生きてきたなんて。 …なぁ、なんで俺達はこんなんなっちまったんだろう。 俺はお前が嫌いで、お前も俺が嫌いで、どんなに憎しみあっていても人間はどうこうして誰かに依存していかなきゃ生きていけない。 たまたまその相手が俺はお前でお前は俺だった。 お前は気づいてなかったかもしれないが、周りには能面を貼り付けたような笑顔を見せるくせに俺の前では心底楽しそうにナイフ振り回すもんな。 下手くそな演技は俺の前じゃ通用しねえんだよ。 何年一緒に居ると思ってんだ。 こんな状況に陥る前にもっと早く気付いていたらと、今となってはただ後悔するばかりだ。 「…まだ生きてるか」 「ムシの息って感じ、かな」 「救急車呼んだからよ…今死んだら殺すからな」 「ははっ…どっちにしろ死ぬじゃん、俺」 平気そうに喋っているが、臨也の腹部からはどこにそんな量が入っているのかと思うくらいに大量の血が溢れ出ており、アスファルトを赤黒く染め上げる程の重傷を負っている。今すぐにでも刺した犯人を追いたいのだが、「ここにいて」という臨也の言葉に側を離れられず、逃げていった犯人の顔、服装を目に焼き付けてカッターシャツを破りその場しのぎの応急処置を施した。これしきのことでこいつは死ぬような奴ではないと俺が誰よりも知っているのに、徐々に体温が失われていく身体に震えが止まらない。 「お前も大概バカだな」 「ほんとにね…なんで助けちゃったんだろ」 本来なら、きっと真逆の立ち位置になっていたはずだった。いや、例えそうなったとしても俺はここまでの怪我はせず、精々掠り傷程度で済むと臨也本人はよく知っているというのに。 救いようのないバカという代名詞はこいつの為に有るのかもしれない。 「あの刺した奴さ、多分ずっと前に俺がシズちゃん殺してって頼んだ奴だった」 「………」 「シズちゃんはこんなことじゃ死なないのにね…今は俺が死にそうだけど」 「お前は好きな奴を殺そうとすんのか」 「うん、まぁ昔の話だ、け…ど…」 血の気を失っていた真っ青な顔が見る見るうちに赤くなっていく様子は端から見てちょっと面白い。 口をパクパクと金魚のように動かす臨也の頭は恐らくなんで?いつから?と激しく混乱状態に陥ってるため、実は口にした俺も緊張していた事実など知る由もないだろう。 「やっぱ図星か」 「っ、ハメたな…!」 「手前が素直にならないからだよ、臨也くん」 「…さいっあく…寄りによってこのタイミングでバレるなんて…」 「最高のタイミングの間違いだろ」 ようやく両想いになれたんだ。 そう言うと俺がこっそり気に入っている赤い瞳が大きく見開かれ、今にも泣き出しそうに顔が歪んだ。 その様子にやっぱり俺は間違っていなかったのだと確信する。 「…なにそれ…俺もう死んじゃうってのにさ…どんだけ残酷なの」 「死なねえよ」 「どうせ死ぬなら片想いのままが良かったよ…未練タラタラで、俺カッコ悪…」 「絶対死なせねえ。お前を殺るのは俺だけだからな」 「…はは、両想いになった途端殺人宣言とか有り得ない」 シズちゃん格好良すぎてムカつく、と。 悔しそうな、けれどそれ以上に嬉しそうな顔で呟いて、最早何処にもそんな体力が有るはずないのに力強く腕を掴まれ引き寄せられた。 血の臭気と突然の行動に思わず眉を寄せ、両端に吊り上げられた唇が目に止まった瞬間、柔らかいものが俺の唇を塞いだ。 触れるだけだったが生温かく湿った感触、終いには鉄錆のような味が伝わりキスをされたのだと理解した。 あまりにも急な出来事で抵抗すらままならずに。 呆気に取られた俺に対し臨也はしてやったりとでも言うような腹が立つ笑い顔でゆっくりと俺の身体にしなだれかかった。 急速に冷えていく体温に慌てたが、微かに息をしていることと後方から聞こえたサイレンの音に酷く安堵し俺は目の前の体躯にすがりつくような形で抱き締めた。 「…んっとに手前はよぉ…」 救急隊員が来たらこんな火照った顔見せらんねーよ、どうしてくれんだ。 とりあえず目を覚ましたら心配かけさせやがってと一発殴りたい。 fin. 最初の段階では死ネタにしようと思ってました(でも悲しくなってやめたという) |